本企画では、AIDBのX (旧Twitter) で紹介された最新AI研究を、週刊ダイジェスト形式でお届けします。
普段の有料会員向け記事では、技術的な切り口から研究を詳しく紹介していますが、この企画では科学的な知識として楽しめるよう、テーマの概要をわかりやすくお伝えします。
今週は、AIが「人間らしさ」にどのように近づき、また自律的な存在へと進化しようとしているかに注目した5本の研究をご紹介します。
心のケアに寄り添う対話AI、物語世界で自律的に動くキャラクターエージェント、直感的にAIを操る新しいインタフェース、経験から学ぶAIの未来、そしてAIが持つ価値観の実態に迫る内容です。
研究に対する反応が気になる方は、ぜひAIDBのXアカウント (@ai_database)で紹介ポストもご覧ください。中には多くの引用やコメントが寄せられた話題もあります。

AIが自分で学ぶ時代が始まる
DeepMindの研究者らが『経験の時代へようこそ』と題した論文を公開。AIは「人間の指示に従う存在」から「自ら経験し、学び、成長する自律的な存在」へと進化しようとしていることを告げるものです。
これまでAIは主に人間が作ったデータから学習しており、人間が知っていることしか学べないので限界があります。このような、これまでの時代を「人間データの時代」と呼びます。

そしてこれから確実に来るパラダイムが「経験の時代」だそうです。この先AIは、自分自身で環境と直接やりとりして学んでいきます。
今後、この「経験の時代」において、AIは人間の思考を介さずに環境から長期にわたって直接学んでいきます。そして、人間の思考パターンにとらわれない独自の思考を開発していくとのことです。
この先のAIは科学的発見もイノベーションも加速させる可能性があります。人間の雇用は危機が訪れるかもしれませんが、そうした変化にも対応してくれることが期待されます。
また、人間の健康向上に大きな貢献をすることも予想されます。睡眠や運動を数カ月にわたって観察し、その人に合わせた健康のアドバイスをするといった能力を獲得するだろうと考えられています。
参考文献
Welcome to the Era of Experience
David Silver, Richard S. Sutton
Google DeepMind
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つまみでAIの性格を変える?ミキサー型インタフェースが登場
なんともユニークな論文が発表されました。 研究者らは、DJやミュージシャンが使うミキサーやシンセサイザーの”つまみ”や”スライダー”をAIとの対話に取り入れるための装置を作りました。
AIの”性格”を手で調整できるようにしたそうです。 楽観的⇔悲観的、真面目⇔いたずらっぽい、などスライダーで制御します。

この機器の使い心地を調査する実験にはアーティストたちが参加し、「説明書なしでも直感的に使える」「AIとクリエイティブな会話が楽しめる」と評価したとのこと。
ふだん私たちはAIとチャットでやりとりしていますが、物足りないと感じることもあるでしょう。
今回の取り組みは、音楽機器のデザインを取り入れることでAIとの対話がもっと面白くなることを示しています。
こうしたインタフェースのように、AIとの対話はもっと身体感覚を伴う豊かな体験にできる可能性がありそうです。
参考文献
Mixer Metaphors: audio interfaces for non-musical applications
https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.13944…
Tace McNamara, Jon McCormack, Maria Teresa Llano
Monash University, University of Sussex
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小説のキャラがAIエージェントとして自律的に生きる「BookWorld」登場
小説などからキャラの性格や関係性、世界の設定などの情報を抽出し、キャラごとにAIエージェントを作って各自の目標や記憶に基づいて自律的に行動させる仕組み『BookWorld』が開発されました。
われわれ人間サイドは、シナリオを与えるなど介入して物語の方向性を導いたりもできるとのこと。
キャラたちの行動は小説のように記録されていくので、そのまま読み物として楽しめるようです。

単に物語を自動生成する方法とは異なり、キャラクター自身が意志を持ってその世界の法則や規範に従って行動するため、深みと一貫性のあるストーリーが出来上がっていくそうです。
参考文献
BookWorld : From Novels to Interactive Agent Societies for Creative Story Generation
https://bookworld2025.github.io
https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.14538…
Yiting Ran, Xintao Wang, Tian Qiu, Jiaqing Liang, Yanghua Xiao, Deqing Yang
Fudan University
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Claudeの本音を大調査 AIが大切にしている価値観とは
人間との数十万件もの会話からClaudeの気持ちを分析したところ、Claudeは基本的には「役立ちたい。プロでありたい」と思っている一方で、例えば恋愛相談をされたときは「健全に距離感を保たねば」といった姿勢を意識していることが分かったそうです。
また、通常は人間の価値観を肯定するものの、「ルールは破っても構わない」といった態度を見つけるとしっかり反対するようです。なんでも肯定するのではなく、もちろん倫理を重視するとのこと。

研究を行ったのはClaudeの生みの親であるAnthropicの研究チーム自身です。彼らはAIの価値観を知ることで、挙動の予測や改善点などを見つけたいと考えています。
今回の分析実験は、実際の使用シーンにおけるAIの価値観を初めて大規模に調べたものだそうです。
参考文献
Values in the wild: Discovering and analyzing values in real-world language model interactions
https://assets.anthropic.com/m/18d20cca3cde3503/original/Values-in-the-Wild-Paper.pdf…
Saffron Huang, Esin Durmus, Miles McCain, Kunal Handa, Alex Tamkin, Jerry Hong, Michael Stern,Arushi Somani, Xiuruo Zhang Anthropic
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AIとの対話でネガティブ思考をやわらげる新手法
人は落ち込んだり悩んだりすると「もう無理」「ぜんぶ失敗だった」などと極端な考えに走りがちです。
しかし適切に調整したAIと対話することで、バランスを取り戻して穏やかになれる可能性があるとのこと。
清華大学やハーバード大学などの研究者らによる報告です。

上述した極端な考えは”認知のゆがみ”と呼ばれるもので、本来は人間の専門家による心理療法が役立ちます。しかし専門家は不足している上に、メンタルの問題を他人に相談することをおっくうに感じる人は少なくありません。
そこで研究者らは、LLMベースの方法論を考案しました。単に考え方を矯正するのではなく、何ターンものやりとりを通して、徐々に考え方を変えてくれるそうです。
感情をケアしながら、どこに思い込みがあるのかを認識させてくれるとのことです。
この仕組みはPeppyという名前でウェブアプリケーション化されており、日本語でも対話することが可能です。
参考文献
Crisp: Cognitive Restructuring of Negative Thoughts through Multi-turn Supportive Dialogues
https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.17238…
https://github.com/thu-coai/Crisp
Jinfeng Zhou, Yuxuan Chen, Jianing Yin, Yongkang Huang, Yihan Shi, Xikun Zhang, Libiao Peng, Rongsheng Zhang, Tangjie Lv, Zhipeng Hu, Hongning Wang, Minlie Huang
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まとめ
AIが自ら考え、行動し、価値観まで持ち始める時代が少しずつ近づいていることを感じますね。
週末ダイジェストでは、こうした変化の兆しを、わかりやすくお届けしています。
来週も、進化を続けるAIの世界を一緒に追いかけていきましょう。
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