ロボットと人間が同じ部屋で盛り上がった夜

2026年3月31日、六本木ヒルズのメルカリ社オフィスにて、AIDB主催の「フィジカルAI勉強会」が開催されました。
会場の真ん中ではReechy Miniがゆらゆら動き、当日発表されたばかりのロボットアームが滑らかに腕を振り、参加者たちはチャットルームに「電気猫が欲しい」「お風呂掃除をロボットにやらせたい」と本音を打ち込んでいる。そんな、ちょっと不思議で熱量の高いイベントでした。
録画はYouTubeにアップしましたが、視聴するのは大変という方もいるかもしれませんので、レポートをお届けします。
動画を観たい方はこちらから。
会場に入ると、ロボットがいる
開場直後から、ステージ正面に置かれたReachy Mini。Hugging FaceとフランスのPollen Roboticsが共同開発した上半身型ロボットで、LLMと接続して会話できる状態でスタンバイしていました。
「めちゃくちゃいい環境をご用意いただいたメルカリ社の皆様、ありがとうございます」と挨拶したAIDB代表の水谷は、冒頭から早口気味。(笑)
登壇者の紹介、ロボットの紹介、性格診断企画の説明、Wi-Fiの案内まで、10分間のオープニングに情報を詰め込みます。
実はAIDB代表の水谷は、東海地方の中小企業(精密機械加工)の家に生まれ、0歳児から機械に囲まれて育ったというバックグラウンドを持っています。大学院で機械工学を学び、メーカーで生産技術に従事する中でアルゴリズムの力に気づき、AIの世界にのめり込んでいった経緯を語りつつ、「フィジカルAIは、感知して判断して行動するテクノロジー。今みなさんがおそらく一番『今後来るんじゃないか』と思ってるテクノロジーなわけです」と、イベントの主題をシンプルに伝えました。
MCを務めたのは、フルスタックエンジニアのことぶきさん。この勉強会開催のきっかけになった方で、当日は進行の合間に登壇者への的確な問いかけを入れる安定感のあるMCぶりでした。
Reachy Miniに「性格」を吹き込む
最初のコーナーは、参加者の性格をReachy Miniに反映させて会話するという実験的な企画。ここで登場したのが、1ヶ月で400万人が利用した診断ツールの開発者・関口舞さんです。
今回用意されたのは「精密エニアグラム144タイプ診断」。MBTIの16タイプにエニアグラムの9タイプを掛け合わせることで、より立体的に性格を把握できる診断ツールです。参加者にはあらかじめ診断を受けてもらい、その結果をReachy Miniのプロンプトに注入するという仕組みでした。
挙手制で最初に名乗り出た参加者に対し、関口さんが瞬時に「タイプ3か7かな」と予想。見事的中させ、会場がどよめく場面も。関口さんによると、タイプ3は「エニアグラム9タイプの中で一番競争心が強いタイプ」で、前に出ることをまったく苦にしないのだとか。
Reachy Miniに性格を反映させると、会話のトーンが変わります。ある参加者の分身は「好きなこと言うたら色々あるで」と関西弁で応答し、別の参加者の分身は好奇心旺盛に質問を連発。関口さんは「同じ課題を与えてタイプによって対処が変わる様子をロボットで見られたら面白そう」「マッチングサービスにも応用できるかも」とアイデアを膨らませていました。
自分の性格が反映されたロボットの動きを見て、「普段、私って人の話聞くときこうなのかな」と振り返る参加者の姿が印象的でした。性格診断 × ロボット × LLMという組み合わせが、単なるデモを超えて「自己理解のツール」になる可能性を感じさせるコーナーでした。
「ロボ作れ」 ハヤカワ五味さんのパンチライン
続いて登壇したのは、会場を提供したメルカリで働きつつ起業家としても活動するハヤカワ五味さん。開口一番「私、ロボ組み立てしてない人のこと人間として見てないんで」と、会場を笑わせます。
ハヤカワ五味さんのメッセージはシンプルかつ強烈でした。「一度ロボを組み立てると、街中のロボットがどういう仕組みで動いてるか想像がつくようになる」。
きっかけは、コスプレ衣装を光らせるワークショップ。その会場が秋葉原の「ロボスタディオン」というロボット系の施設で、店長と話しているうちに「いつの間にか片足が沼にはまり、気がついたら腰くらいまで来てた」とのこと。SO-101というアーム式ロボットを2本作り、ルンバのように360°動くロボットを組み立て、スタックちゃんも作り、今では「謎の寿司のロボット」を披露するまでに。
エントリーとして勧めていたのはタミヤのロボ組み立てキット(3,000円程度)。「秋葉原のヨドバシで買えば今日帰りに受け取れるレベル」という具体性がハヤカワ五味さんらしいところ。さらに3Dプリンターが3万円台で買えること、MeshyなどAIで3Dモデルを生成できるサービスがあること、Claude Codeと一緒にプログラミングできることなど、「2026年の今、家でオリジナルロボットが作れる環境が揃っている」ことを強調しました。
「AIめちゃくちゃ進化しても仕事ないじゃないですか、皆さん」「AIで最近プログラミング作るのって簡単すぎたりしませんか? 皆さん苦しみを求めてませんか?」と畳みかけつつ、フィジカルの世界はデバイスが壊れてるのか自分が壊れてるのかAIが壊れてるのかわからないという「程よい苦しみ」がある、と。会場は笑いながらも、妙に納得した空気が流れていました。
また、IoT × AIの再燃にも言及。「GoogleHomeにGeminiが載るようなアップデートが今年来るはず。5年前に一度盛り上がったスマートホームが、また盛り上がるんじゃないか」という見立ても興味深いポイントでした。
万博ロボから当日発表の新型アームまで ハルモニウムの2人
次のコーナーでは、大阪・関西万博にロボットを出展したハルモニウムから芝村ひばりさん(クリエイティブディレクター)と大嶋悠司さん(代表 / エンジニアリングディレクター)が登壇しました。
芝村さんはまず、世界中で「ロボットお祭り状態」が起きていることを紹介。ディズニーが作るスター・ウォーズの二足歩行ロボット、本物と見紛うオラフのロボット、中国のスマホゲーム「原神」の実物大ロボットなど、着ぐるみでは不可能だったことが今実現されつつあるといいます。
その鍵がQDDブラシレスモーター。中国の犬型ロボットやヒューマノイドの大半に使われている技術で、俊敏さ、安価さ、長寿命、AI連携のしやすさが特徴です。ただし「高トルク化が難しく、ロボットのサイズを大きくしにくい」という課題がある。そこでハルモニウムが挑んだのが「QDDモーターでどこまででかいロボットが作れるか」。

完成したのがハルモニア・コンパス。全長2m、高さ約1.7m。人間より明らかにでかい。重量約80kgで、砂浜や波打ち際でも歩行できる防水性を備えています。アスラテックのロボット制御システム「V-Sido」による滑らかな動きも見どころ。船のような見た目にしたりサメの形にしたりと、メディアプラットフォームとしての拡張性も持たせており、この船の姿で大阪・関西万博に出展。2週間で13万人を超える来場者にロボットを楽しんでもらったそうです。
続いてマイクを取った大嶋さんからは、なんと当日発表の新作ロボットアーム「Nightingale(ナイチンゲール)01」のお披露目が。
NTT研究所、メルカリ(5年間勤務)を経てスタートアップを立ち上げ、現在ハルモニウムでロボットを作っているという大嶋さん。背景にはSO-101アームへの課題がありました。「安価でよく動くし模倣学習もしやすいけど、ずっと使ってると見えてくる課題がある」。重いものが持てない、テレオペ中に片付いてしまう、モーターが壊れる、アクセスできない場所がある。
「じゃあいいや、もう作ろう」。求めたのは、SO-101くらいのサイズ感で、力が強くて、頑丈で、滑らかに制御できて、アクセスできる場所が多くて、何よりかっこいいアーム。「かっこいいアームが欲しかった。まずこれが非常に大事なモチベーションです」という言葉に笑いが起きつつも、実物を見た参加者は納得顔。
Nightingale 01はSO-101の3倍以上のトルクを持ち、辛い姿勢でも500mlペットボトルを持ち上げられる。V-Sidoによる滑らかな制御に加え、操作コントローラーへの力のフィードバックも実装。ベアリング入りで耐久性も大幅に向上しています。「僕のデスクに置きたくなるデザインを目指しました」と大嶋さん。会場では実際に動いているナイチンゲールを参加者が触れる状態になっており、交流タイムでは行列ができていました。
4,300円から始まる「持ち歩く相棒」 A-Utaさんとスタックちゃんミニマル
「家庭予算ミニロボでAIを動かそう」というLTコーナーに登場したのはA-Utaさん。スタックちゃんコミュニティで活動しており、M5Stackのマイコンを使った手のひらサイズのAI会話ロボットを制作しています。

A-Utaさんのこだわりは「ローカルLLMで完結させること」。クラウドに依存しない理由を、こう語りました。「企業が提供するサービスのロボットは必ず止まります。利益が出ないと判断された瞬間にサービス停止されるからです。相棒として長く付き合いたいなら、ハードもソフトも自分で管理できるものが欲しい」。かつて人気だったロボット「aibo」のサービス終了を引き合いに出しての説明に、会場は深く頷いていました。
スタックちゃんミニマルの構成は、身体としてのマイコン(2.4cm × 4cm、ガチャガチャのカプセルに入るサイズ)と、魂としてのスマートフォン。スマホ上でOllamaを動かし、PiperTTSで音声を返す仕組みで、特別な機材は不要。サーボ無しの会話だけの構成なら4,300円で作れるとのこと。3Dプリンターでカプセルを可愛くデザインして、キーホルダーとして鞄に下げて持ち歩くのがコンセプトです。
ハヤカワ五味さんの「ロボ作れ」と、A-Utaさんの「4,300円から始められる」が見事に繋がった瞬間でした。
人工意識をロボットに宿す Forcesteed Robotics 角谷さん
ガラッと雰囲気が変わったのが、Forcesteed Roboticsの角谷さんのコーナー。キーエンスで18年半勤務した後、フィンガービジョン社のCROを経て、2026年1月にForcesteed Roboticsにジョインしたという経歴の持ち主です。
入社の動機を聞かれて「ガンダムを作りたいんですけど、核融合もミノフスキー粒子もないので」と笑いを取りつつ、「もうちょっと現実的に考えたら、攻殻機動隊のタチコマが作りたい」と。タチコマは好奇心の塊のようなAI。「Claude Codeとか使ってると感じると思うんですけど、今のAIって言われたことしかやらないですよね。タチコマは違う。『あれ、これっておかしくない?』と自分から疑問を持つ」。

Forcesteed Roboticsが取り組んでいるのは、まさにそういった「好奇心」をAIに持たせること。コンセプトプロダクト「Guardian」は4足歩行ロボットの上にAI搭載のユニットを載せた構成で、番犬のようにうろうろしながら、不審な人がいたら自分から声をかけに行く、という挙動を目指しています。
「今日の時点で、違和感や見たことないことに対して興味を持つ挙動が出始めた。ゴールまでの5%くらい」と角谷さん。また、監視カメラの映像データの93%が活用されていない現状を例に出し、「AIが人間と同じ認識能力を持ったら、VLMでテキスト化でき、ログとして残せる。人間に手が足りなくて捨てられていた情報をAIなら活用できる」と、人工意識の実用面での可能性も語りました。
「ロボットに意識を宿す」と聞くとSF的に聞こえますが、角谷さんの話は監視カメラ映像の活用という地に足のついた事例から入り、そこから「相棒」という概念に自然に繋がっていく構成。「プロダクトに魂が入ったらこういうことができるようになる」というビジョンは、プレスリリースとして公開とのことで、会場の関心を強く引いていました。
フィジカルAIを論文で俯瞰する
後半では水谷が「AIDBらしく」と前置きしつつ、フィジカルAIの市場動向と論文ベースの技術分類を紹介。
市場面では、日本がフィジカルAIの波に乗るべき理由として、ファナック(産業用ロボットの老舗)、テレイグジスタンス(コンビニ業務のロボット効率化)、チューリング(自動運転)、ソフトバンクによるABB買収など、国内プレイヤーの動きを概観。「政治の世界でもかなり盛り上がっている。製造業で立国してきた日本がこの波に乗らないでどうする、という空気がある」と。

技術分類では、サーベイ論文を参照しつつ「タスク × 応用ドメイン」という整理軸を紹介しました。タスクはマニピュレーション(操作)、ナビゲーション(移動)、プランニングなど。応用ドメインは産業、サービス(介護など)、サイエンス、農業、エンターテインメント。「Reachy Miniは移動機構を備えていないけど、LLMの推論能力とボディの魅力が合わさってこれだけのアテンションを得ている。エンターテインメント領域のフィジカルAIは注目に値する」という指摘は、まさにこの日のイベント全体を貫くテーマでした。
主要プレイヤーとしてはGoogle DeepMind(Gemini Robotics)、NVIDIA、Physical Intelligence(π0)、Figure AIなどを挙げ、「経済ニュースばかりで疲れた方は一回論文で癒しの時間を。論文を癒しって考えるのは変態かもしれませんが」と、水谷らしいコメントで締めくくりました。
参加者の「欲望」が飛び交ったアイデア座談会
最後のコーナーは、参加者全員参加のフリートーク。「身近な課題をフィジカルAIで解決できるか」をテーマに、チャットルームに続々とアイデアが書き込まれました。
水谷自身が最初に投げたお題は「お風呂に入るのがめんどくさい。全自動お風呂入り機が欲しい」。参加者からも似たような声が。これらに対してForcesteed Roboticsの角谷さんが「触覚がないのが課題。ボタンを押せたかどうかもわからないし、力加減がわからない。センサーを入れても、そのさじ加減がまた難しい。そしてハードウェアの処理性能がまだ追いつかない。あと2,000万円のロボットを家に入れますか?」と、現場を知る人ならではの回答。
チャットルームには「物の整理をしてほしい」「冷蔵庫の中身から献立を提案してほしい(写真じゃなくて自分で冷蔵庫を開けて見てほしい)」「肩に乗せてちっちゃいパートナーにしたい」「朝自動的に起こしてくれて顔洗って服着せてほしい」「毎日違うメニューのスムージーを作ってほしい」と、わがままな(でもみんな共感できる)アイデアが次々と。
中でもユニークだったのは、海洋写真家の参加者から出た「磯焼けを防ぐためにウニを退治するROVを作りたい」。海水温上昇でウニが増えすぎて海藻を食べ尽くし、海が砂漠化する問題。AIを積んだ水中ロボットにひたすらウニを駆除させたいが、長時間潜るとカメラにコケが付いて見えなくなるという現場ならではの課題も。「現場の課題を持っている人が強い」という水谷のコメントに、会場は頷いていました。
「赤ちゃんの泣きやましをロボットにやってほしい」という声からは、人肌の温もりが必要なタスクの難しさ、そして「子どもがロボットに愛着を持って育つ世代が出てくる」というSF的な未来像にまで話が広がりました。
その後、交流タイムでは現地参加のみなさんと「Reachy Mini」、「Nightingale(ナイチンゲール)01」を囲みつつさまざまな意見を交わしました。
まとめ
イベントを振り返ると、そこにあったのは「フィジカルAI」という言葉が持つ幅の広さそのものでした。
Reachy Miniに性格を吹き込んで会話する遊び。3,000円のタミヤキットから始まるロボット入門。万博を沸かせた全長2mの巨大歩行ロボット。ガチャガチャサイズの持ち歩き相棒。監視カメラに宿す人工意識。そしてウニを退治する水中ロボット。
一見バラバラに見えるこれらの話題が、「AIに体を持たせたらどうなるか」「体にAIが宿ったらどうなるか」という問いのもとに、自然とひとつの流れになっていく。
登壇者からは「まず組み立ててみろ」(ハヤカワ五味さん)、「かっこいいが一番大事なモチベーション」(大嶋さん)、「相棒として長く付き合うならローカルで」(A-Utaさん)、「好奇心を持つAIが欲しい」(角谷さん)と、それぞれの哲学が感じられるメッセージがありました。
参加者同士の交流タイムでは、ナイチンゲールのアームに感心する人、Reachy Miniと喋り続ける人、スタックちゃんミニマルと交流する人、そして登壇者と直接議論する人で会場は賑わいが続いていました。
次回の開催にも期待が高まります。フィジカルAIの世界は、論文の中だけではなく、すぐそこのロボットの腕の先にまで来ているのだと実感できる一夜でした。
イベント情報
- 主催:AIDB(株式会社Parks)
- 会場:株式会社メルカリ
- MC:ことぶきさん
- 登壇者:関口舞さん(株式会社プールサイド)、ハヤカワ五味さん(株式会社メルカリ)、芝村ひばりさん&大嶋悠司さん(ハルモニウム)、A-Utaさん(スタックチャンコミュニティ)、角谷さん(Forcesteed Robotics)
- アーカイブ動画:YouTube
イベントページはこちらでした。
また、参加者や視聴者の感想をPosifeでまとめさせていただきました。https://posfie.com/@ai_database/p/rdMnf3R