この記事は、産業活用促進委員会主催「JDLA内部勉強会」についてのレポートです。
2020年5月19日(火)、JDLA会員向けの遠隔参加型勉強会が行われました。
アイブン編集部はメディアとして参加させていただきました。
この記事では当日どんな内容だったのか、かいつまんでレポートしたいと思います。なお、勉強会の全容はJDLA公式YouTubeチャンネルでアップロードされる予定なので、この記事では会話のポイントを絞って、研究の補足と共にお送りします。
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登壇者・議題
登壇者情報
- 森 正弥さん(デロイトトーマツコンサルティング)
- 石山 洸さん(エクサウィザーズ)
- 丸山 宏さん(Preferred Networks)
モデレーター情報
- 佐藤 聡さん(connectome.design)
議題
– wtihコロナ、壮大かつ喫緊の課題解決に対してDL活用でできること
– afterコロナ、目指す未来とは?
以下では、各パートの会話を少しご紹介し、サマリーと補足をお届けします。モデレーターである佐藤さん(connectome.design)には赤色を付けさせていただきました。
イケてるディープラーニング活用ありませんか?
佐藤さん(connectome.design):
まず、ディープラーニングのイケてる活用について、昨今の状況についてお話をお伺いしてみたいです。
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
ちょっと前まではイケてる事例としてアーティストのような役割のディープラーニング活用事例が多かったです。
最近は記事や広告をつくったり、ビジネス応用が多くなってきました。しかし、経済的に価値のあることをAIがやりだしたら、人は何をやるの?という話になります。一段上のクリエイティブについて考える必要が出てきます。
佐藤さん(connectome.design):
AIという言葉は世間で一人歩きしていますが、そもそも「知能」って何でしょう?人工のうえに知能って、なんだか、よくわかりませんよね。
序盤では、アートからデザイン方面に活躍の場を拡げてきているのが話題になりました。
「経済的に価値のあることをAIがやる」といえば、イーロンマスクの会社OpenAIが、文書生成ツールを発表しています。
しかしあまりにもクオリティが高いために「このような高度なAIが悪用されたら大変だ」と警鐘を鳴らしています。
参考▶️「「危険すぎる」と話題のOpenAIの文書生成ツールを悪用してみたら・・・」
知能とは何か?AIとは何か?AIはどこにある?
佐藤さん(connectome.design):
現代の空海と名高い石山さんにお伺いしたいです。
石山さん(エクサウィザーズ):
実務に近い話にしましょう。まず、化学ならディープラーニングを用いた味覚の再現で革新が起こっていますよね。そのような例を考えると、創造力が必要な業務もやっているなあ。
佐藤さん(connectome.design):
知能って、本当に使えているんでしょうか?我々(JDLA)は、あえてディープラーニングという技術用語で表現しています。ディープラーニングは知能って言えますか?StarCraftのようなプロジェクトで活躍したとき、複雑なタスクに対応しているプログラムは十分知能だという意見もあがりましたが・・・。人工知能って本当にあるのかな?
丸山さん(Preferred Networks):
今のレベルだと、どこに線が引けるかってことだと思うんです。たとえばGANって創造的に見えるけど、たまたま見栄えがいいものを拾って「創造的だね」って言ってるだけですよね。
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
実際、モデルにフィットさせる部分に関しては機械学習なり深層学習でやるけど、お膳立てをするのは人間でやってます。アインシュタインみたいに、お膳立てを乗り越える知的活動までは、まだギャップがあります。
石山さん(エクサウィザーズ):
私なんかはピアノが趣味なんですけど、即興演奏とかをやる場合、ノイズの入れ方とかが大事だったりします。確率的なモデルを作ったりすることもできるでしょう。しかし例えば「毎日ピアノをやる」人物に与えられる「シンボリックな」イメージ、意味的なものをどう設計するか?という話になると非常に難しい。「個性」を定義する際の難しさのような話に近いのかもしれない。
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
面白い話ですね。今、石山さんの話を「面白い」って感じて思い出したんですが、「面白い」って、創発のドライバですよね。しかも「面白い」の裏側には「飽きる」がある。「飽きる」という感情は、人間の想像力の源のような気がしています。ロボットは、飽きません。
佐藤さん(connectome.design):
制限がある中での創発は、ただの偶然なのか、真の意味での創発なのか?そこが難しいなと感じることがあります。
森さんは、楽天から移られたのは、飽きに関係があるんですか?
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
AIを産業に広めていくためには、違うアプローチが必要なんだと感じたんです。楽天では70近い事業があって、AI活用を進めるのは面白かった。でも、テクノロジーが国際社会に貢献していくと証明するためには、AIで産業を進められるんだという確信が持ちたかったんです。
皆さんそうだと思うんですが、AIを活用するときに、データをどうつなげていいかのガバナンスに悩むと思います。そこが、産業を進めるためにAIを使うためのハードルだと感じています。
人工知能は存在しうるのか?という大きな問い。登壇者の中では、GANは知能の現れのように見えても実は知能ではないという話が挙がりました。
GANとは、NVIDIAが開発した、ある学習データに基づいてランダムに写真やイラストを新しく生成する技術です。
参考▶️リアルな人物画像を生み出す「StyleGAN」のしくみを解説!(1)
芸術を行うAIは知能を持っているように見えます。しかし、どうも人間と同じ役割を持つには至っていないようです。
AIの大規模なカンファレンスであるICMLでは、リアルなピアノ演奏を実現するAIに関する論文が出ています。
参考▶️世界トップAI論文を読解(1)「リアルなピアノ演奏をAIで実現する」【コード有】#ICML
ディープラーニングの価値は?
佐藤さん(connectome.design):
では、そんな中でディープラーニングの価値って何なんでしょう?100年に一度の発明と言われていますけど、何が100年に一度なんでしょう。私は、ディープラーニングが重要性をもつためには、センサーの開発が大事なんじゃないかと思っているんですけど。石山さん、どうですか?前処理がない質問ですみません。
石山さん(エクサウィザーズ):
ディープラーニングの価値ですか。例えば、介護分野では、かなり大きな変化がもたらされました。ディープラーニング登場以前の介護というのは、動画解析で介護を科学するという世界観がありませんでした。
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
ディープラーニングって、抽象と具象の違いを僕たちに教えてくれたなって思います。我々も、実はディープラーニングが情報を処理する手順と同じように脳が働いてる気がするんです。例えば文章を暗記するときも、単語を隠しながら暗記する方が覚えがいいらしい。これはディープラーニングも人間も性質が似ています。人間の知能に対する理解が高まったんじゃないかな。
佐藤さん(connectome.design):
ブレインテック業界は盛り上がりましたよね。脳の実験をしたくても、なかなか生身の人間の脳をいじるのは難しい。しかしディープラーニングベースの脳をつかって実験が捗ります。人は、自分のことが知りたいものですね。
丸山さん(Preferred Networks):
ディープラーニングの価値って、「計算はチューリングだけじゃない」って教えてくれたのが1番の功績だと思います。離散だけではないと。ディープラーニングは連続ですよね。これまでのプログラミングは、計算の例を与えることだった。しかし、「「わかるところはわかる」「わからんところはわからん」そういう計算もあるじゃない」それがディープラーニングなんです。
佐藤さん(connectome.design):
いままでも、想定されていない入力はありましたけど、ディープラーニングはある程度のデータ量があれば進むという部分がユニークですよね。
今回話に挙がった「ディープラーニングの価値」をまとめると、以下の4つでした。
・介護分野を発達させた
・抽象と具象の違いを教えてくれた
・人間の知能に対する理解が深まった
・プログラミングの常識に一石を投じた
ちなみに人間の脳と機械を結びつける技術は、ニューラルリンクが開発中です。
参考▶️【号外】イーロンマスクのニューラルリンクが放つ「統合ブレインマシンインターフェース」とは!?【AI論文】
ディープラーニングの問題点は?
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
しかし、だからといって、産業はブラックボックスをどこまで許容するんでしょうか?コントロールできることを、アンコントローラブルなものに、わざわざ移しますかね?これは人間の尊厳の問題に行き着くんじゃないでしょうか。例えば、ディープラーニングがやるよりも精度が低かったとしても、人間がやったほうがいい、という結論が出る場面もあるのかなと。これは人文学的で、哲学の領域の話なのかもしれませんね。
佐藤さん(connectome.design):
石山さんの会社では創薬を行っていると思いますが、AIがつくった薬のもたらす結果の責任はどこにある、という話も出てきそうですよね。
石山さん(エクサウィザーズ):
そうですね。しかし、私は今回コロナが発生して、人々の倫理観が変わる可能性があると思っています。
佐藤さん(connectome.design):
withコロナの状況において、我々が準備できることってなんでしょうか。コロナ以外のケースにおいても、有事の際に我々ができることとは?
丸山さん(Preferred Networks):
私は実は、2月から残念な気持ちでいます。
コロナってまさにデータサイエンスの課題だからです。本来は活用すべきテクノロジーが手元にあるはずなのに、アクションを入れれなかった。社会に対して、データサイエンスの人間たちが集まって何かを打ち出してもよかった。
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
モデルリテラシーという表現が正しいのかはわかりませんが、社会のデータサイエンスに対するリテラシーをどうもっていくか?というのは課題ですよね。
佐藤さん(connectome.design):
感染症のシミュレーションモデルって、アメリカでさえ1カ所しかにありません。
創薬という分野でいうと、日本は創薬頑張っていますよね。スパコン使って。しかし、感染シミュレーターも非常に重要だと思います。
丸山さん(Preferred Networks):
イギリスのシミュレーションはよくできています。日本も、ロックダウンをゆるめるたびに感染者が増えれば、彼らのシミュレーションの結果に似たような感じになりそうです。
便利ではあるけれど計算の過程が見えないのがディープラーニング。なので、感染症への対策のように重要度の高い意思決定にはディープラーニングをなかなか使えなかった、という話が挙がりました。
またそんな中でもイギリスはロックダウンに関するシミュレーションの研究が盛んで、企業も力をいれていました。
参考▶️数学モデルによるシミュレーション結果「このままだと2年間かかる」(英)
新しいスマートシティとは?
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
スマートシティの研究の世界は基本的に、資源の有効活用がメインの課題だったと思います。あとは交通量とか。しかし、今回のコロナの件を受けて、シミュレーションの存在感が増しました。学校が閉鎖したらどうなるか?道路を閉鎖したらどうなるか?都市の設計をするときに、どんな方策をとってもレジリエントな(耐性がある)ことが大事だと感じました。
佐藤さん(connectome.design):
スマートシティって比較的新しい研究分野なのに、さらに新しい話があるんですね。
「シミュレーション」を前提に設計されるのが、これからの都市なのかもしれません。
スマートシティの実現に向けた技術論文は多く公開されているます。
参考▶️ゴミ収集を自動化できるか!?(AI×IoT)【論文】
AIの活用が活発な、規制が少ない国は?
佐藤さん(connectome.design):
リテラシーの話だったり、倫理観の話は、文化による違いがあると思います。中国はAIの活用に関して飛び抜けて積極的なのは周知の事実ですが、他に規制が少ない国はどこでしょうか?
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
シンガポール、韓国なんかは、個々の移動情報に関するデータ集計が進んでいます。シンガポールの場合は「EZ-Link」というサービスでも収集されています。シンガポールは驚きますよ。都市の街中に、とんでもないほどの監視カメラがあります。これらの国々は、規制がゆるいというわけではありません。目的をもって活用を進めているのですね。
佐藤さん(connectome.design):
逆に厳しい国はどこでしょう?
森さん(デロイトトーマツコンサルティング):
ヨーロッパを中心に、データ活用に制限をかけていくというトレンドがあるのは事実です。あとはサンフランシスコ。あそこは公共のサービスで顔認識は禁止です。人権意識に関する文化的違いといいますか。
佐藤さん(connectome.design):
ヨーロッパは、データに対する人権意識が強まりましたよね。
日本の場合は、モバイル端末の移動情報をyahooが集計して渋滞情報に役立てていると思うんですが、「誰でも使える」という状態にはもちろんなっていない。もう少し解放してくれたら、雲の流れみたいに人流を解析したいのですが。
石山さん(エクサウィザーズ):
プログラミングのパラダイムが、倫理観とか生活様式に変化を与えるんじゃないでしょうか?
丸山さん(Preferred Networks):
面白いですね。今後考えてみます。
佐藤さん(connectome.design):
プログラミングって本来、複雑なものですよね。言語をつくるのはカオスを支配する力と言い換えてもいいかもしれません。
中国、韓国やシンガポールなどと比較して、ヨーロッパは規制が激しくなっている印象がある、というのが話の要点でした。
韓国の「個人の情報を集積して処理する」技術例としては、カメラを使った老人の安全管理に関する研究が論文として公開されています。
参考▶︎高齢者の転倒を防げ!AIで突発的な転倒を予測(AI×ヘルスケア)【論文】
将来に向かう大きな流れ
今回の議論では、実装ベースの仕事だけでは考えが及ばない話も多く出てきました。
先端テクノロジーが人間社会でどう立ち振る舞っていくのか、データに対する人々の倫理観を合わせて考えていく時代なのかもしれません。
しかし今回の新型コロナウイルス感染拡大をうけて「データサイエンスがもっとできることがあったはずだ」という感覚は、多くの人の心を動かしたのではないでしょうか。
今回の勉強会では、ディープラーニングの活用を学ぶとともに、その本質について忘れずに思いを巡らすことが重要だと思わされました。
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