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次回の更新記事:パッケージ依存から見たLLMの技術基盤ネットワークの…(公開予定日:2025年05月08日)

IBMの最新決算から見るエンタープライズAIビジネスの動向と関連キャリアを考察

   

本記事は、AI業界の最新動向に関心を持つ方々や、キャリア形成や転職を検討するAI人材、そしてAI人材の採用を目指す企業の採用担当者を対象とした、AIDB経済調査チームによるコラムシリーズです。​

今回は、IBMの2024年第4四半期決算を基に、同社のエンタープライズAI戦略とそのビジネス的インパクトを分析します。​とくに、生成AIプラットフォーム「watsonx」や、Red Hatを中心としたハイブリッドクラウド戦略が、どのように収益成長やキャッシュフローの改善に寄与しているのかを検討します。

AIDBは、通常は科学技術の進展を論文ベースで取り上げていますが、本コラムでは、技術が経済的価値へと転換する事業面の視点から、IBMのAI戦略を追跡します。​

IBMの取り組みは、国内のAIビジネスに大きな示唆を与える存在となっており、AI人材のキャリア形成や企業の採用戦略にも影響を与えると考えられます。

本記事の参照資料:

https://jp.newsroom.ibm.com/2025-01-30-IBM-RELEASES-FOURTH-QUARTER-RESULTSほか

最新決算から見るIBMの戦略

ソフトウェア事業の好調と生成AIへの注力

2024年第4四半期(10月〜12月)のIBM決算では、ソフトウェア部門が前年同期比で10%以上の成長を遂げ、同社全体の業績を牽引しました。​特に、Red Hat事業は17%の増収を記録し、OpenShiftの年間経常収益(ARR)は14億ドルに達しています。 ​

生成AI関連のビジネスも拡大しており、累計で50億ドル超の契約を獲得しました。​このうち、ソフトウェア部門が約10億ドル、残りの大部分がコンサルティング部門によるものです。

IBMは、Watsonブランドの知見を発展させ、より包括的なAIプラットフォーム「watsonx」に注力しています。​このプラットフォームは、AIモデルの開発・運用を支援する「watsonx.ai」、データ管理を行う「watsonx.data」、AIガバナンスを提供する「watsonx.governance」などで構成され、企業の生成AI活用を加速させています。 ​

ハイブリッドクラウド戦略とインフラ事業の動向

一方、インフラストラクチャー部門は前年同期比で6%の減収となりました。​特に、IBM Zシリーズの売上が20%減少しています。 ​

このような状況を受け、IBMはクラウドネイティブ技術とオンプレミス環境を組み合わせたハイブリッドクラウド戦略に注力しています。​これにより、大手顧客のミッションクリティカルなプロジェクトを支えつつ、生成AIの実用化を加速させるという二正面のアプローチを展開しています。

研究開発投資の状況と「Watsonx」の展望

ハイブリッド対応のAIプラットフォーム「Watsonx」

IBMは、企業向けAIプラットフォーム「Watsonx」への投資を強化しています。このプラットフォームは、自社開発の言語モデル「Graniteシリーズ」や、外部のオープンソースモデルを組み合わせて利用できる設計となっており、オンプレミスとクラウドの両環境に柔軟に対応可能です。とくに、セキュリティ要件の厳しい金融や公共セクターでは、「フルクラウド移行は難しいが高度なAI活用はしたい」というニーズが存在します。IBMは、Watsonxを通じて、安全性とガバナンスを確保しながら生成AIを活用する選択肢を提供し、差別化を図っています。​

また、Watsonxのコンポーネントである「watsonx.governance」は、モデルのライフサイクル全体にわたるパフォーマンスとリスク管理の可視化を促進し、開発活動とパフォーマンス・メトリックの記録として機能します。AI導入が進む中で高まる説明責任やバイアス対策へのニーズにも応える狙いです。

グローバル連携と専門領域の拡張

IBMは、海外パートナー企業との連携やアーキテクチャ最適化を進め、Watsonxの導入事例をさらに拡大しています。​メインフレーム向けのAI推論機能強化を含む複数の技術開発も進められており、金融や医療、製造など多様な産業での適用拡大を目指しています。​日本国内においても、オンプレミス重視の企業や官公庁の厳格な要件に合わせたソリューションとして、Watsonxの展開が期待されています。

求められる人材像と新たなポイント

企業におけるAI活用が進展する中で、求められる人材像も変化しています。従来のモデル構築スキルに加え、運用やセキュリティ、組織間の連携といった多面的な能力が重視される傾向にあります。以下では、とくに注目される4つの観点を整理します。​

1. ハイブリッド環境に対応したインフラ運用の理解

生成AIや大規模言語モデルの導入には、高度な計算資源が求められます。オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッド構成が一般的となる中、OpenShiftやKubernetesなどの技術を活用し、GPUリソースの効率的な割り当てやデータの所在に応じた運用設計ができるスキルが求められています。自社のサーバーと外部クラウドを適切に使い分ける能力を持つエンジニアの需要が高まっています。​

2. AIモデルのガバナンスとセキュリティへの対応

金融機関や官公庁など、規制の厳しい業界でのAI導入が進む中で、モデルの公平性や説明責任を確保するガバナンス体制の構築が重要となっています。​Watsonx.governanceのようなツールを活用し、バイアス検出やデータプライバシーの管理を自動化しつつ、リアルタイムでの異常モニタリングを行う仕組みの構築が求められています。​セキュリティやコンプライアンスの観点を含め、インフラ管理とAI技術を融合させる能力が重視されています。​

3. 生成AIのビジネス適用に向けたスキル

生成AIへの関心が高まる中で、実際のビジネスへの適用には、リスク解析や需要予測など、特定の領域に特化した応用力が不可欠です。​汎用モデルの運用だけでなく、業界特有の課題に合わせたチューニングやソリューション提案を行う能力が、現場での成果に直結します。​また、導入コストやROIを明示し、ステークホルダーの合意を得るコミュニケーション力も重要な要素となっています。​

4. 組織横断的なプロジェクト推進力

大規模なAI導入プロジェクトでは、セキュリティ部門やインフラ担当、ビジネスサイドなど、多くの関係者が関与します。​そのため、プロジェクトの進行管理には高い調整力が求められます。​アジャイル開発やスクラム手法に加え、PMBOKやITILなどの管理フレームワークを適切に活用し、合意形成をスムーズに行う能力が重視されています。​技術的な知見に加え、人や組織をまとめるリーダーシップが求められています。

まとめ

IBMの2024年第4四半期決算では、ソフトウェア部門の堅調な成長と、生成AIプラットフォーム「Watsonx」を中心とした取り組みが注目されました。​とくに、クラウドネイティブ技術とオンプレミス資産を組み合わせたハイブリッドクラウド戦略は、日本企業のセキュリティやガバナンス要件に対応する上で、有効なアプローチと考えられます。​

こうしたAIビジネスの進展に伴い、技術的な専門性だけでなく、マネジメントやガバナンス、ビジネスの視点を持つ人材の重要性が増しています。​AIエンジニアの方々は、ディープラーニングやクラウド運用に加えて、セキュリティ要件や業界特有の知識にも目を向けることが求められます。​また、採用担当者にとっては、複数の専門領域を橋渡しできる人材の確保が、組織の成長に寄与すると考えられます。​

なお、AIDBではAI人材と企業の適切なマッチングを支援するプラットフォームを提供しています。​AI関連の転職や求人、プロジェクト参画を検討されている方は、以下のリンクをご参照いただき、最新の市場動向を踏まえたキャリアプランや採用方針の検討にお役立てください。​

👉 AIDB人材マッチングプラットフォーム

LLMとハイブリッドクラウドの融合が進む現在、専門知識の深さと広い視野を兼ね備えた人材が、AIビジネスの推進において重要な役割を果たすことが期待されます。​IBMの事例を通じて、日本のエンタープライズAIが目指す次のステージを見据える一助となれば幸いです。

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