AI技術の進歩は、私たちの日常生活の多くの側面に影響を与えています。しかし、AI技術の「環境への影響」はどの程度なのでしょうか? Bill Tomlinsonらの研究チームは、AIと人間が行うテキスト生成とイラスト作成のタスクに関連するCO2排出量を比較しました。
その結果は、驚きのものでした。
参照論文情報
- タイトル:The Carbon Emissions of Writing and Illustrating Are Lower for AI than for Humans
- 著者:Bill Tomlinson, Rebecca W. Black, Donald J. Patterson, Andrew W. Torrance
- 所属:University of California, Victoria University of Wellington, Westmont College, University of Kansas, Massachusetts Institute of Technology
- URL:https://doi.org/10.48550/arXiv.2303.06219
研究背景
近年、人工知能(AI)技術の急速な進展が見られる中で、その環境への影響が強く懸念されてきました。例えば、AIモデルの訓練と運用に関連するエネルギー消費とそれに伴う温室効果ガス排出が大きな問題として取り上げられています。
エネルギー消費とCO2排出
AIモデルの訓練には膨大な計算リソースが必要であり、それが大量のエネルギー消費を引き起こします。このエネルギー消費は、データセンターの冷却やサーバーの動作に関連するものであり、それによって大量のCO2が排出されることになります。最近で言えば、大規模言語モデルであるGPT-3の訓練は、5台の車の寿命全体に相当するCO2排出を生じると指摘されています。
研究の重要性
このような背景から、AIの環境への影響を具体的に評価するための研究が急務となっています。今回紹介する研究はその一環として行われ、AIと人間が行うテキスト生成とイラスト作成という2つのタスクにおけるCO2排出量を比較しています。研究者らは、AI技術の環境への影響をより正確に理解し、今後の技術開発の方向性を考える上での基盤を提供することを目指しています。
実験デザイン
研究者たちはAIと人間が行う2つの主要なタスク(テキスト生成とイラスト作成)におけるCO2排出量を推定して比較する実験を設計しました。以下では、その実験デザインについて見ていきます。
1. データ収集と分析
研究者たちは、AIシステムと人間活動の環境影響のさまざまな側面に関する既存のデータに基づいて数値解析を行いました。これらのデータ源は、AIと人間活動の環境影響に関する既存の研究とデータベースから取得されました。詳細はこちらで確認できます。
2. テキスト生成の実験設定
テキスト生成タスクの検証では、ChatGPT(Jan 9バージョンおよびJan 30バージョン)を使用しました。(なお、テキストが著作権を侵害したり、不適切な引用を行ったりしないように、TurnItInという盗作検出ソフトウェアを使用してテキストを検証しました。)
3. イラスト作成の実験設定
イラスト作成タスクでは、DALL-E2とMidjourneyという2つの主要なAI画像生成エンジンを使用しました。DALL-E2はGPT-3エンジンに基づいており、MidjourneyはStable Diffusionというシステムに基づいています。Midjourneyの影響を評価する際には、CEOのDavid Holzの声明※に基づいたアプローチを取りました。
※論文によれば、MidjourneyのCEOであるDavid Holzは、Midjourneyのコンピュータ使用に関して次のように述べています。「各画像の生成にはペタオプス(1ペタオプス = 1クアドリリオンのオペレーション)が必要であり、画像1枚を作成するのに数千兆のオペレーションが行われます。具体的な数は5か10か50かはわかりませんが、通常の人々がこれほど多くの計算を使用するサービスはこれまでにありませんでした」
テキスト生成のCO2排出について
テキスト生成タスクにおけるCO2排出量を計算する際には、人間とAIそれぞれの異なる側面を考慮する必要があります。以下では、それぞれの計算方法とその結果について詳しく説明します。
人間によるテキスト生成
1. 一人当たりの年間CO2排出量
研究者は、一人当たりの年間CO2排出量を基に、テキスト生成タスクを行う際の1時間あたりのCO2排出量を算出しました。
2. 単語出力速度
さらに、平均的な単語出力速度を基に、1ページを書くのにかかる時間を計算しました。この時間を基に、テキスト生成に関連するCO2排出量を算出しています。
3. コンピュータの電力消費によるCO2排出
人間がテキストを作成する際に使用するコンピュータの電力消費によるCO2排出量も計算に含めました。
AIによるテキスト生成
1. トレーニング段階のエネルギー消費
AIのテキスト生成に関するCO2排出量の計算では、まずトレーニング段階でのエネルギー消費とそれに関連するCO2排出量を算出しました。
2. データセンターのエネルギー効率とエネルギー源
データセンターのエネルギー効率と使用されるエネルギー源のタイプも考慮に入れました。このことで、エネルギー消費とCO2排出量の更なる詳細な分析が可能となりました。
3. クエリあたりのエネルギー消費
また、クエリあたりのエネルギー消費とそれに関連するCO2排出量も計算しました。この段階では、データセンターのエネルギー効率とエネルギー源のタイプも再び考慮されました。
結果の解釈
これらの計算を基に、AIは人間よりもテキスト生成において130〜1500倍少ないCO2を排出すると推定されました。この結果は、AIの利用がテキスト生成タスクにおいて環境に与える影響を大幅に削減できる可能性を示しています。(ただし、単位作業あたりの効率のみを考えた場合です。詳細は「考察」セクションで記述します。)
イラスト作成のCO2排出について
イラスト作成タスクにおけるCO2排出量の計算は、テキスト生成タスクと同様に、人間とAIのそれぞれのプロセスを詳細に分析して行われました。以下にその方法と結果を説明します。
人間によるイラスト作成
1. イラスト作成時間
人間がイラストを作成する際のCO2排出量を計算するために、まずイラストを作成するのにかかる平均時間を基に、そのタスクにかかるCO2排出量を計算しました。
2. コンピュータの電力消費
さらに、人間がイラストを作成する際に使用するコンピュータの電力消費によるCO2排出量も計算に含めました。このことで、イラスト作成プロセス全体の環境への影響を評価することができました。
AIによるイラスト作成
1. トレーニング段階のCO2排出
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