
スマート農業、と聞いて思い浮かぶ風景があると思います。畑じゅうに張り巡らされたIoTセンサー、上空から土壌の水分を読み取る衛星、ドローンが作物の生育を撮影し、AIが葉の色から病気を判定する。研究論文を読んでいると、こうした未来的な情報インフラが当たり前のように前提とされています。
ところが現場のイチゴ農家の手元にあるのは何かというと、週に1回つけている収穫量メモ。圃場(畑の区画)ごとの簡単な属性表。それに気象庁から拾ってきた近隣の天気データ。エクセルで管理できるレベルの、ごく素朴な情報です。
なぜそうなるのか。理由のひとつに、英国のイチゴの95%がポリトンネルというビニールハウスの中で育てられているという事情があります。屋根があるので、衛星から畑が見えません。ドローンも飛ばせません。土壌センサーは1株ずつ設置しないと意味がなく、商業規模で展開すると採算が合いません。AI研究が前提とする「高解像度の情報」が、構造的にこの作物には届かない構図になっています。
ではこの環境で、AIに何ができるのか。最近発表された研究で、面白いアプローチが試されていました。データが手に入らないなら、いま手元にあるデータをもっと丁寧に推論しよう、という方向です。具体的には、既存の予測モデル(ありふれた機械学習モデルです)が出した収穫量予測を、LLMエージェントが横で点検し、「いま3月なのに採れる予測が出てるのはおかしい」「ここ数週間モデルが高めにズレてるから割り引こう」と判定して直していく。農家の頭の中にある経験的な判断を、AIに移植するような設計です。
衛星も使えない、ドローンも飛ばせない、データも貧弱な畑で、家庭用のGPU1枚で動くLLMが、それでも予測精度を2〜3割改善できた。この研究が示している風景を、見ていきます。