次回の更新記事:「データは多ければ良い」は本当か?データを減らし…(公開予定日:2025年11月12日)

言葉に入り込み、知識を広げ、都市を動かすAIのいま

   

本企画では、AIDBのXで紹介されたいくつかの最新AI研究を、ダイジェスト形式でお届けします。

普段の有料会員向け記事では、技術的な切り口から研究を詳しく紹介していますが、この企画では科学的な知識として楽しめるよう、テーマの概要をわかりやすくお伝えします。

今週は、AIが人間の生活や社会にどのように影響を与えているのかを探ります。AIの言葉遣いが人々の会話に染み込む現象、昔の写真を見ながら会話を広げる視線追跡システム、自動でWikipediaを最新情報に更新する仕組み、そして渋滞や突発事態にも対応できるLLM信号制御まで、言語から交通まで広がるAIの関わり方に迫ります。

研究に対する反応が気になる方は、ぜひAIDBのXアカウント (@ai_database)で紹介ポストもご覧ください。中には多くの引用やコメントが寄せられた話題もあります。

また、一部はPosfieにも掲載されており、読者のリアクションをまとめたページもあわせて公開しています。

AIの言葉が人に移るとき 無意識に変わる話し方の可能性

ChatGPTリリースの2022年を境に、AIがよく使う単語を人間も実際に多く口にするようになっている可能性がある、と報告されています。
文章ではなく音声の分析にもとづいています。

つまり、人間はAIの言葉遣いに無意識に影響されて、自分の話し方を変えているかもしれないという状況です。

研究者たちはこれを「染み込み効果」と呼んでいます。AIの言葉が人間の頭の中に染み込んで、気づかないうちに使うようになってしまう現象を指します。

ただし、この変化が本当にAIの影響なのか、たまたま同じ時期に起こった自然な変化なのかは、まだはっきりしません。
しかし、仮にAIが人間の言葉遣いを変えているとしたら、言葉だけでなく、考え方や価値観にも影響を与える可能性もあります。

*「染み込み効果」は意訳であり、原文では“seep-in” effect と表現されています。
*音声データは英語のポッドキャスト(台本無し)から取得されています。

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参考文献

Model Misalignment and Language Change: Traces of AI-Associated Language in Unscripted Spoken English

https://arxiv.org/abs/2508.00238

Bryce Anderson, Riley Galpin, Tom S. Juzek

Florida State University

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AIと一緒にたどる思い出 視線で会話が広がるメガネシステム

思い出話は心の健康に良いとされています。そこで研究者たちがAIのサポートで楽しく昔を振り返ることができるメガネシステムを開発したところ、実験参加者の8割が満足したと答えています。

写真の特定の場所をじっと見ている人には、AIがその部分について詳しく質問するといった仕組みです。

実験後、参加者の気分が明らかに良くなりました。60代から80代の10人で試したところ、使用後に幸せな気持ちが14%増え、ネガティブな気持ちが15%減ったそうです。

仕組みはシンプルで、特殊なメガネをかけてもらい、写真のどこを見ているかを認識したAIが「テレビが写ってますね、昔はどんな番組を見ていましたか?」といった具合に、その人が注目している部分について質問を投げかけます。

昔の写真を見ながらAIと会話することで、楽しく記憶を思い出せるシステムを作ったという話です。

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参考文献

Eye2Recall: Exploring the Design of Enhancing Reminiscence Activities via Eye Tracking-Based LLM-Powered Interaction Experience for Older Adults

https://arxiv.org/abs/2508.02232

Lei Han, Mingnan Wei, Qiongyan Chen, Anqi Wang, Rong Pang, Kefei Liu, Rongrong Chen, David Yip

The Hong Kong University of Science and Technology, BNU-HKBU United International College, University of Edinburgh

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AIがWikipediaを途切れなく更新する未来

Wikipediaを自動で最新情報に更新するAIシステムを開発したと報告されています。

研究者たちはインターネット上の最新ニュースを自動で探し出し、そのニュースがどのWikipedia記事のどの部分に関連するかを判断し、適切な文章に書き換えてWikipediaの該当箇所に挿入する仕組みを実装。

実際のWikipedia編集者に評価してもらったところ、AIが提案した編集の約68%がそのまま採用できるレベルで、29%が少し修正すれば使える程度でした。
また、人間が重要だと判断して追加する情報の約3分の1程度は自動で発見できるレベルに達しているようでした。

もちろん完璧ではありません。それでも、有望な技術と言えます。

現在のWikipediaは人間のボランティア編集者に完全に依存しているため、新しい出来事が起きてもそれが記事に反映されるまでに何日も何週間もかかってしまいます。

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参考文献

WINELL: Wikipedia Never-Ending Updating with LLM Agents

https://arxiv.org/abs/2508.03728

Revanth Gangi Reddy, Tanay Dixit, Jiaxin Qin, Cheng Qian, Daniel Lee, Jiawei Han, Kevin Small, Xing Fan, Ruhi Sarikaya, Heng Ji

University of Illinois Urbana-Champaign, Amazon

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渋滞を読むAI信号機 未経験の道路も即対応

LLMで交通信号機を制御するシステムが開発され、中国の大都市で実際に毎日5万5千人以上のドライバーの交通管理に使用されているそうです。
従来システムと比べて渋滞を減らし、現場の負荷も大幅に軽減していると報告されています。

このシステムの特徴として、一度も経験したことがない新しい道路や緊急事態にも適切に対応し、なぜその判断をしたのかを人間の言葉で説明できるとのことです。

これまでの交通信号は固定的なルールで動くか、複雑なコンピュータプログラムで制御され、あまり融通が利かないという課題があります。
そうした点を改善できる可能性が期待されています。

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参考文献

Traffic-R1: Reinforced LLMs Bring Human-Like Reasoning to Traffic Signal Control Systems

https://arxiv.org/abs/2508.02344

Xingchen Zou, Yuhao Yang, Zheng Chen, Xixuan Hao, Yiqi Chen, Chao Huang, Yuxuan Liang

The Hong Kong University of Science and Technology (Guangzhou), PCITECH, The University of Hong Kong

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数学能力の高いLLMはユーモア理解力で優る

AIが「笑い話」を理解できるかどうかを調べたところ、数学や科学が得意なLLMほど、ユーモアの理解も上手な傾向にあったそうです。
冗談を理解するのに必要な論理的思考力が、数学的な思考と似ているからだと考えられています。

実際、数学専用のデータだけで訓練されたAIでも、
ユーモア理解でそれなりの成績を収めました。

しかし、「考える時間」を与えるほど成績が向上するというわけではありませんでした。むしろ逆に成績が下がってしまう場合もあります。
LLMにとっては、ユーモアを理解するのに「論理的である必要はあるが、必ずしも長考が有効とは限らない」ということです。

とはいえ、理解レベルは人間並みとは言い難いことも明らかになっており、LLMによる「笑い話」の理解は未解決と言えます。
両者の思考プロセスにおける構造的な違いを改めて認識するきっかけだ、とされています。

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参考文献

Which LLMs Get the Joke? Probing Non-STEM Reasoning Abilities with HumorBench

https://doi.org/10.48550/arXiv.2507.21476

Reuben Narad, Siddharth Suresh, Jiayi Chen, Pine S.L. Dysart-Bricken, Bob Mankoff, Robert Nowak, Jifan Zhang, Lalit Jain

University of Washington, University of Wisconsin-Madison, Air Mail and Cartoon Collections

まとめ

AIは単なる道具から、人間の言葉や判断に自然に影響を及ぼす存在へと進化しています。今回の研究は、日常会話や記憶の振り返り、知識の共有、都市の交通管理といった多様な場面で、AIが人間と共に動き、考える可能性を示しました。

週末ダイジェストでは、こうした技術がもたらす変化の背景や社会的な意味にも目を向けてお届けします。次回も、AIが生活の中で見せる新たな顔を一緒に追いかけていきましょう。

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