次回の更新記事:「データは多ければ良い」は本当か?データを減らし…(公開予定日:2025年11月12日)

AIは人の心をどう理解し、どこまで人に似るのか

   

本企画では、AIDBのXで紹介されたいくつかの最新AI研究を、ダイジェスト形式でお届けします。

普段の有料会員向け記事では、技術的な切り口から研究を詳しく紹介していますが、この企画では科学的な知識として楽しめるよう、テーマの概要をわかりやすくお伝えします。

今週は、

研究に対する反応が気になる方は、ぜひAIDBのXアカウント (@ai_database)で紹介ポストもご覧ください。中には多くの引用やコメントが寄せられた話題もあります。

また、一部はPosfieにも掲載されており、読者のリアクションをまとめたページもあわせて公開しています。

LLMは予測器になれるのか 役割演技と反省で精度を伸ばす

LLMは、使い方次第では従来の機械学習の代替手段になり得ることのことです。​​​​東京大学の研究者らによる報告。

研究者たちは、LLMに「君は予測する関数だよ」と役割を演じさせることが有効だと明らかにしました。

ただし、普通に使うと、人間の大半に勝つこともある一方でとんでもない間違いをすることもあります。

そこで、LLMに間違いを反省させる機能を付けたところ、改善できることも確認されました。

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参考文献

Mockingbird: How does LLM perform in general machine learning tasks?

https://arxiv.org/abs/2508.04279

Haoyu Jia, Yoshiki Obinata, Kento Kawaharazuka, Kei Okada

JSK Robotics Laboratory, Graduate School of Information Science and Tech- nology, The University of Tokyo

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AIは感情をどう理解するのか 人間とは違う“努力重視”の視点

人間が感情を処理する時は「楽しいか不快か」を重要視しがちなのに対し、LLMは「どれだけ努力が必要か」を異常に重視すると示唆されています。 ペンシルベニア州立大学の研究者らによる報告。

実験によると、LLMは怒りを「不快な感情」としてではなく「不公平だと感じる感情」として理解する傾向がありました。 また恐怖についても「怖い感情」というより「大変な努力を要する状況への反応」として捉えていました。

なお、同じ感情でもモデルによって違う解釈をすることがあると分かりました。なかでもGoogleのGeminiは他のモデルとは著しく異なる感情理解を示していました(「退屈」をポジティブと捉える等)。

要するに、LLMは人間とは根本的に異なる方法で感情を捉えている可能性があります。AIを感情が関わる場面で使用する際には十分注意が必要であることを意味しています。

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参考文献

Do Machines Think Emotionally? Cognitive Appraisal Analysis of Large Language Models

https://arxiv.org/abs/2508.05880

Sree Bhattacharyya, Lucas Craig, Tharun Dilliraj, Jia Li, James Z. Wang

The Pennsylvania State University

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AIが創る“存在しない言語” 自動生成される新しいことばの世界

「言語を発明する」という、これまで人間の創造性と専門知識が必要だった分野をLLMで自動化することに成功したと報告されています。

匂いで文法が変わる言語、子音が一切ない言語、単語を辞書順に並べる言語など、現実には存在しない非常にユニークな人工言語を生成できるとのこと。 また、作った言語による文章を作成したり翻訳することもできるそうです。

こうした全く新しい架空の言語を作り出すシステムは、ゲームや創作だけでなく、言語学の理論研究にも応用できる可能性が期待されています。

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参考文献

ConlangCrafter: Constructing Languages with a Multi-Hop LLM Pipeline

https://arxiv.org/abs/2508.06094

Morris Alper, Moran Yanuka, Raja Giryes, Gašper Beguš

Tel Aviv University, UC Berkeley

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AIの共感は“頭で理解” 人間のように“心で感じる”ことはできない

LLMと人間の「共感力」を比較した実験の結果、LLMは、とくにテキストベースの課題では人間よりも相手の気持ちを理解するのが得意だということが分かりました。 最新のモデルは心理学を学んでいる大学生よりも高い点数を取りました。 文章を読んで相手の心理状態を推測したり、目元の写真から感情を読み取ったりすることが可能です。

しかし一方で、相手の感情に「共鳴」して「自分も同じように感じる」という能力については、人間に大きく劣りました。人間が44点取るテストでLLMは14点程度しか取れませんでした。

つまり、「心で感じる」タイプの共感は苦手だということです。膨大なデータから学習して論理的に感情を分析できる一方で、実際に感情を体験することはできないからだと考えられています。

感情労働の未来は、AIが客観的な感情分析を担当し、人間が温かみのある感情的なサポートを提供するという役割分担が有効かもしれません。

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参考文献

Heartificial Intelligence: Exploring Empathy in Language Models

https://arxiv.org/abs/2508.08271

Victoria Williams, Benjamin Rosman

University of the Witwatersrand

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GPT-5が医学問題で示した圧倒的進化 眼科分野で正答率96%超え

「GPT-5」が眼科の医学問題をどれくらい正確に解けるかを260問の専門問題を使ってテストしたところ、「GPT-5-high」は正答率96.5%を記録しました。

なお、同じ問題を2年前のGPT-3.5に解かせると55.8%、GPT-4でも75.8%でした。LLMの医学知識は急速に向上していることが分かります。

ただし、高性能なモデルほど使用料金も高くなるため、日常的な用途に向いているかもしれないのはコストが安く性能も高い「GPT-5-mini-low」だと示唆されています。

総じてAIが医療分野でますます実用的になってきており、将来的には診断のサポートや医学教育に活用される可能性が高まっています。 ただし、あくまで補助ツールとしての役割が期待されています。

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参考文献

Performance of GPT-5 Frontier Models in Ophthalmology Question Answering

https://arxiv.org/abs/2508.09956

Fares Antaki, David Mikhail, Daniel Milad, Danny A Mammo, Sumit Sharma, Sunil K Srivastava, Bing Yu Chen, Samir Touma, Mertcan Sevgi, Jonathan El-Khoury, Pearse A Keane, Qingyu Chen, Yih Chung Tham, Renaud Duval

Cole Eye Institute, Cleveland Clinic, Department of Ophthalmology University of Montreal, Centre Hospitalier de l’Université de Montréal, The CHUM School of Artificial Intelligence in Healthcare, Temerty Faculty of Medicine University of Toronto, Department of Ophthalmology Hopital Maisonneuve-Rosemont, Cleveland Clinic Lerner College of Medicine of Case Western Reserve University, Neurological Institute Cleveland Clinic, Institute of Ophthalmology University College London, NIHR Biomedical Research Centre at Moorfields Eye Hospital NHS Foundation Trust, Department of Biomedical Informatics and Data Science Yale School of Medicine Yale University, Centre for Innovation and Precision Eye Health National University of Singapore, Singapore Eye Research Institute Singapore National Eye Centre, Eye Academic Clinical Program Duke NUS Medical School

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AIの推論は人間の脳に似ている? 抽象パズルで見えた思考の共通点

十分に大きく賢いLLMは、単に正解を出すだけでなく、人間の脳と似たような方法で抽象的な推論を行っている可能性があることが示唆されています。

研究者たちは、記号のマークを使った抽象的なパズルを人間とLLMの両方に解かせました。 そしてLLMの「頭の中」を調べてみると、 性能の良いモデルほど、人間の脳活動パターンと似たような情報処理をしていることが分かりました。

なお、パズルは「星・星・星・ギター・星・星・星・?」のような並びで、最後の「?」に入るアイコンを当てるというものです。 その結果、LLMの中間層と呼ばれる部分での情報の整理の仕方が、人間が問題を解いているときの前頭葉の脳波パターンと相関していたのです。

限られた実験内容であり、結果の解釈にも慎重さが求められますが、AIと人間の知能に共通する原理があることを意味する証拠の候補として注目されます。

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参考文献

Large Language Models Show Signs of Alignment with Human Neurocognition During Abstract Reasoning

https://arxiv.org/abs/2508.10057

Christopher Pinier, Sonia Acuña Vargas, Mariia Steeghs-Turchina, Dora Matzke, Claire E. Stevenson, Michael D. Nunez

University of Amsterdam

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脳が「見ること」とAIが「読むこと」が重なるとき

人間が画像を見た時の脳の反応が、テキストだけで学習したAIと似ているということを発見したそうです。

たとえばLLMに「犬がボートに立っている」といった説明文を読ませた時の内部状態と、人間がその画像を見た時の脳活動パターンが、非常によく一致していました。 これは直感的には非常に不思議なことです。

さらにこの一致は比較的精密で、脳活動のデータだけを見て、その人がどんな画像を見ていたかを言葉で説明することまで可能とのことです。

この発見は脳科学と人工知能の両分野にとって意味のある発見かもしれません。​​​​​​​​​

もしかすると私たちが何かを「見る」という行為は、最終的には言語的な理解に近い形で脳内で処理されているのかもしれない(そうした可能性を示唆している)と考察されています。

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参考文献

High-level visual representations in the human brain are aligned with large language models

https://www.nature.com/articles/s42256-025-01072-0

Adrien Doerig, Tim C. Kietzmann, Emily Allen, Yihan Wu, Thomas Naselaris, Kendrick Kay, Ian Charest

Freie Universität Berlin, University of Osnabrück, Bernstein Center for Computational Neuroscience, University of Minnesota, Université de Montréal

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まとめ

AIは正解を導くだけでなく、人間の感情や思考のパターンに似たふるまいを見せ始めています。ときに人間とは違う視点で心を理解し、ときに人間に迫る脳活動の類似性を示す。今回紹介した研究は、AIが「人に近い存在」へと歩み寄りつつも、根本的な違いを残したまま共存していく姿を浮かび上がらせました。

週末ダイジェストでは、こうしたAIの進化が投げかける問いを、わかりやすくお届けします。次回もまた、人間とAIの境界を探る新たな発見を一緒に追いかけていきましょう。

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