次回の更新記事:Cursorはソフトウェア開発を加速する?導入後の実態…(公開予定日:2025年11月11日)

AIはどこまで人を理解し どこまで社会を演じられるのか

   

本企画では、AIDBのXで紹介されたいくつかの最新AI研究を、ダイジェスト形式でお届けします。

普段の有料会員向け記事では、技術的な切り口から研究を詳しく紹介していますが、この企画では科学的な知識として楽しめるよう、テーマの概要をわかりやすくお伝えします。

今週は、都市を動かし、しぐさで語り、演技を導き、細胞を育て、そして驚きから学ぶAIたちを追いました。現実の中でふるまいを磨きながら、人間らしさと知性の境界に踏み込んでいく5本です。

研究に対する反応が気になる方は、ぜひAIDBのXアカウント (@ai_database)で紹介ポストもご覧ください。中には多くの引用やコメントが寄せられた話題もあります。

また、一部はPosfieにも掲載されており、読者のリアクションをまとめたページもあわせて公開しています。

100万人の仮想住民が動く都市シミュレーター、登場

LLMで人間のように行動する仮想的な住民を最大100万人分作り出し、都市全体をシミュレーションするシステムを作ったとのこと。
ウーブン・バイ・トヨタの研究者らによる報告です。

研究者らは、AIに人格や記憶、欲求、長期的な目標を与えることに成功。
お腹が空いたり疲れたりといった基本的な欲求に加えて、社会的なつながりといった高次の欲求も持っています。
そして仮想住民一人一人が過去の経験を覚えていて、それに基づいて行動を決めます。

東京を舞台に設定し1000人分のシミュレーションを行ったところ、平日の通勤ラッシュや週末のレジャー行動、買い物パターンなどが、日本政府の実際の統計データと非常によく一致していたそうです。
渋谷の人混みの分布や、どの店が人気になるかの予測も、現実のデータとかなり近い結果が得られています。

なお、こうしたシミュレーションでは、学習データに含まれる偏見や先入観が反映される可能性があるリスクに気を付けなければいけません。
とはいえ、都市計画や災害対策、商業施設の立地計画など、実際に人を使った実験では難しい様々なシナリオを安全かつ低コストで検証できるツールとして期待されています。

また、仮想住民に”自己実現”など最高位の欲求を実装することも見据えているそうです。

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参考文献

CitySim: Modeling Urban Behaviors and City Dynamics with Large-Scale LLM-Driven Agent Simulation

https://arxiv.org/abs/2506.21805

Nicolas Bougie, Narimasa Watanabe

Woven by Toyota

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うなずきも笑顔も自然に AIが4千時間の対話から学んだリアルしぐさ

AIが会話中において”見た目の振る舞い”も実際の人間と見分けがつかないほど自然にこなせるような開発に成功したとのこと。

Metaの研究者らによる報告です。

研究者らは人間が無意識にやっている会話中の動作をAIに学習させました。
「相手が話しているときはうなずく」「自分が話すときは手振りをする」「相手が笑ったら一緒に笑う」といった動きです。

なお、ただ自然に振舞わせるだけでなく、感情の表現や手振りを「コントロールする」ことも可能だそうです。

学習データの用意は地道で、4,000人以上の人に対面で会話してもらい、その様子を”4,000時間以上”も録画しました。
さらに、ただ普通に話してもらうだけでなく、心理学の理論に基づいて様々な感情や態度で会話してもらったり、俳優さんに演技してもらったりもしたそうです。

ただし、現状は「ほぼ見分けがつかない」とは言いつつも「完全に見分けがつかないわけではない」ことに注意。

こうした技術はゲームのキャラクターやバーチャル会議、AIアシスタントの可視化などで活用されうると期待されています。

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参考文献

Seamless Interaction: Dyadic Audiovisual Motion Modeling and Large-Scale Dataset

https://arxiv.org/abs/2506.22554

Vasu Agrawal, Akinniyi Akinyemi, Kathryn Alvero, Morteza Behrooz, Julia Buffalini, Fabio Maria Carlucci, Joy Chen, Junming Chen, Zhang Chen, Shiyang Cheng, Praveen Chowdary, Joe Chuang, Antony D’Avirro, Jon Daly, Ning Dong, Mark Duppenthaler, Cynthia Gao, Jeff Girard, Martin Gleize, Sahir Gomez, Hongyu Gong, Srivathsan Govindarajan, Brandon Han, Sen He, Denise Hernandez, Yordan Hristov, Rongjie Huang, Hirofumi Inaguma, Somya Jain, Raj Janardhan, Qingyao Jia, Christopher Klaiber, Dejan Kovachev, Moneish Kumar, Hang Li, Yilei Li, Pavel Litvin, Wei Liu, Guangyao Ma, Jing Ma, Martin Ma, Xutai Ma, Lucas Mantovani, Sagar Miglani, Sreyas Mohan, Louis-Philippe Morency, Evonne Ng, Kam-Woh Ng, Tu Anh Nguyen, Amia Oberai, Benjamin Peloquin, Juan Pino, Jovan Popovic, Omid Poursaeed, Fabian Prada, Alice Rakotoarison, Alexander Richard, Christophe Ropers, Safiyyah Saleem, Vasu Sharma, Alex Shcherbyna, Jia Shen, Jie Shen, Anastasis Stathopoulos, Anna Sun, Paden Tomasello, Tuan Tran, Arina Turkatenko, Bo Wan, Chao Wang, Jeff Wang, Mary Williamson, Carleigh Wood, Tao Xiang, Yilin Yang, Julien Yao, Chen Zhang, Jiemin Zhang, Xinyue Zhang, Jason Zheng, Pavlo Zhyzheria, Jan Zikes, Michael Zollhoefer

Meta, University of Kansas

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AIが即興劇の相方になる ImprovMateで一人稽古が本番級に

東京大学やアドビなどの研究者らは、LLMで俳優の「即興劇」を手伝うシステムを作ったとのことです。

俳優がカメラの前で演技をすると、AIがその動きや話している内容を理解して、物語を続けます。
さらに、AIは予想外の展開やキャラクターを提案して、俳優のクリエイティビティを刺激します。

実際に俳優たちに試してもらったところ、AIが自分の演技の意図をちゃんと理解してくれることに感心し、ふだんの練習とは違う「より言語化可能な」即興劇ができると評価しました。

なお、普通なら問題とされるAIの「でたらめな回答」が、逆に俳優にとって良い刺激になるそうです。
予期しないアイデアが出てくることで、新しい発想を生み出せるようになるからです。
また若い俳優が率先してAIを受け入れたそうです。

こうした切り口で演技の世界にAIを導入するのは珍しいものの、俳優が一人の時間でも良い練習ができるようにする優れた応用事例だと考えられます。

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参考文献

ImprovMate: Multimodal AI Assistant for Improv Actor Training

https://arxiv.org/abs/2506.23180

Riccardo Drago, Yotam Sechayk, Mustafa Doga Dogan, Andrea Sanna, Takeo Igarashi

Politecnico di Torino, The University of Tokyo, Adobe Research

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細胞実験を自動でこなすAIロボットが登場 実験手順の生成から観察まで一括で実行

細胞実験をAIロボットが完全に自動でできるシステムを作ったとの報告。

研究者らは、人間が自然な言葉で指示すると、LLMが勝手に論文を調べて実験手順を考え出し、2本のロボットアームを使って実験を実行するシステムを開発しました。
そして実験中にカメラで監視し、培養皿がずれたりといったトラブルを自動で見つけて対処もします。
「HeLa細胞を継代培養して」と命令したらその通り完了する、といったイメージです。

3種類の細胞で実験したところ、人間がやるのと同じかそれ以上の品質で細胞培養ができたそうです。
むしろロボットの方が手順が正確で、結果のばらつきが少なくなりました。作業時間も大幅に短縮されて、人間なら1時間かかる作業を10分未満で終わらせています。

ただ、こうした分野はとくにAIの応用は慎重に考えなくてはいけません。
しかし正しく使えば実験の再現性向上、研究スピード加速、コスト削減につながることが期待されます。

なお、実験条件の最適化も行うとのことで、複雑な細胞分化実験で、既存手法よりも効率よく最適な条件を見つけ出したようです。

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参考文献

BioMARS: A Multi-Agent Robotic System for Autonomous Biological Experiments

https://arxiv.org/abs/2507.01485

Yibo Qiu, Zan Huang, Zhiyu Wang, Handi Liu, Yiling Qiao, Yifeng Hu, Shu’ang Sun, Hangke Peng, Ronald X Xu, Mingzhai Sun

Suzhou Institute for Advanced Research, University of Science and Technology of China, University of Science and Technology of China

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AIが「これはすごい」と感じた仮説は本当にすごかった 仰天を指標に科学発見を自動化

LLMに「仰天」のような感覚を定義して与え、人間が思いもつかなかったような新しい発見をさせる仕組みを作ったとの報告。

研究者らは、AIが自分で「何を探求すべきか」を決められるようにしました。その判断基準として「仰天」を使うのがポイントです。
AIは膨大な仮説・可能性の中から、より仰天しそうな方向を探していきます。

実際に実世界データで試したところ、AIが「これはすごいぞ」と判定した発見の3分の2が、人間の専門家にとっても実際に注目に値するものだったそうです。

ただし、AIの自律的な科学研究においては、誤った結論がそのままになったり有害な研究が進むリスクに気を付ける必要があります。
それでも、こうした技術は、AIが自分で面白そうなことを見つけて調べたことが人間にとっても幸福をもたらす、科学研究の良い未来を予感させるものでもあります。

なお、「AIによる感覚的な判断」と「プログラムによる高速なデータ分析」を組み合わせたハイブリッド式の研究システムも今後の実装を構想しているそうです。

*本稿で「仰天」と表現しているものは原文では“Bayesian surprise”。LLMにとっての意外さを定量的に測る仕組みです。

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参考文献

Open-ended Scientific Discovery via Bayesian Surprise

https://arxiv.org/abs/2507.00310

Dhruv Agarwal, Bodhisattwa Prasad Majumder, Reece Adamson, Megha Chakravorty, Satvika Reddy Gavireddy, Aditya Parashar, Harshit Surana, Bhavana Dalvi Mishra, Andrew McCallum, Ashish Sabharwal, Peter Clark

University of Massachusetts Amherst, Allen Institute for AI

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まとめ

AIはいま、人のふるまいをなぞるだけでなく、その意味を理解し、演じる力を身につけ始めています。
街に溶け込み、対話に反応し、創作や研究に取り組む姿には、単なる計算以上の「意図」や「判断」がにじみ出ています。

今回の研究群は、AIが社会的な存在としてふるまうための足場を築いているようにも見えました。
どこまで人を理解し、どこまで社会の一員になれるのか。
その問いを胸に、次回もAIたちのふるまいの変化をともに見つめていきましょう。

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