本記事では、富士通の最新決算資料をもとに、同社のAI戦略や採用動向を分析し、AI分野でキャリアを築くためのヒントを探ります。読者の皆様が、最新の市場動向を正確に把握し、戦略的にキャリア形成を進めるための一助となれば幸いです。なお、企業の決算資料をベースにして記事をお届けする本コラムシリーズ企画はAIDB HRの紹介も兼ねています。参考になった際には、ぜひサービスページにも足を運んでいただけると嬉しいです。
AI技術の進化は、ビジネスや社会のあり方に大きな変革をもたらしています。こうした中で、富士通は長年にわたる技術研究と豊富な導入実績を背景に、AI分野でも存在感を強めています。
2025年3月期(2024年度)の決算では、売上収益が前年同期比で増加し、AIをはじめとする成長分野への積極投資が引き続き行われていることが示されました。特に注目すべきは、富士通が推進する「Fujitsu Uvance」です。社会課題の解決を目指す新たなビジネスプラットフォームとして、AI技術を核に据えた多様なソリューション展開が進められています。
参照情報:富士通株式会社 決算説明資料ほか
富士通の概要とAI関連事業
企業概要
富士通は、情報通信技術(ICT)分野における総合システムインテグレーターとして、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを一体で提供し、世界トップクラスの実績を誇っています。企業理念に「人と社会の未来を切り拓く」を掲げ、技術革新と社会課題の解決を両立させる取り組みを続けています。2025年3月期(2024年度)の決算では、売上収益が約3兆5,501億円(前年比2.1%増)、調整後営業利益が約3,072億円(同15.8%増)と、過去最高益を更新しました。
AI関連事業の全体像
富士通のAI事業は、「Fujitsu Uvance」を中心に展開されています。Fujitsu Uvanceは、社会課題の解決を目指すプラットフォームとして位置づけられ、クラウドAI、エッジAI、MLOps支援など幅広い技術を取り込みながら、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援しています。製造、金融、ヘルスケア、公共分野に向けた最適なソリューションを国内外で展開しており、2024年度の売上は前年同期比で約30%増と、力強い成長を遂げました。
各ソリューションの特徴と強み
グローバル市場では、大規模な導入実績を背景に、AI技術とクラウドサービスを組み合わせた総合的なソリューションを提供しています。企業のビジネスプロセス改革や、生成AIの活用支援にも力を入れています。日本市場では、日本語に特化したAIや国内企業の業務プロセスに即したカスタマイズ性の高いサービスを展開し、官公庁や大手企業との連携によって高い信頼を築いています。海外では、欧米やアジア各国のニーズに応じたソリューションを、現地パートナーとの共同開発を通じて展開しており、社会課題解決に向けたクロスインダストリーの取り組みも評価されています。
主要事業セグメント
サービスソリューション事業では、DX推進やモダナイゼーション支援を中心に、企業の業務プロセス改革を後押ししています。2025年3月期は、前年同期比で約5.1%の増収を達成し、収益の柱となりました。ハードウェアソリューション事業では、高性能サーバやエッジコンピューティング基盤を活用し、リアルタイム処理が求められるAI活用を支えています。ユビキタスソリューション事業では、IoTやセンサーデータを活用したスマートシティやスマートファクトリー向けソリューションを展開し、収益性の改善により調整後営業利益が前年同期比で約29.6%増加しました。デバイスソリューション事業では、組み込みAIやエッジデバイスを通じて、製造現場や小売店舗で求められる即時性の高い応用を支えています。

富士通の決算概況
富士通の2025年3月期(2024年度)決算では、前年度末と比べて資産合計が3兆5,148億円から3兆4,978億円へとわずかに減少しました。資本合計も1兆9,188億円から1兆9,020億円へ、親会社の所有者に帰属する持分も1兆7,524億円から1兆7,410億円へと、それぞれ小幅に減少しています。
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業活動によるキャッシュ・フローは3,092億円から3,038億円へとやや減少しました。一方で、投資活動による支出は縮小し、前年の1,572億円から891億円へと抑えられました。財務活動による支出は増加しており、1,815億円から2,404億円となっています。
売上収益は、前年の3兆4,770億円から3兆5,501億円へと2.1%増加しました。事業別に見ると、サービスソリューションが引き続き好調で、ハードウェアソリューションの減少分を十分に補っています。とくに、国内外でのデジタルトランスフォーメーション(DX)需要が、サービスソリューション事業の成長を強力に後押ししました。
総じて、全体の財政状態にはやや縮小傾向が見られるものの、収益面ではDX関連の需要拡大に支えられて堅調な成長を維持している状況です。
AI市場の動向と富士通のポジション
世界全体でAI市場は急拡大を続けています。IDCの調査によれば、2023年時点でグローバルAI市場の規模は約2,350億ドルに達し、2028年には6,310億ドルを超えると見込まれています。年平均成長率は27%に達する見通しです。一方、日本国内でもAIシステム市場への支出が2024年に初めて1兆円を突破し、前年比で約41.6%増という高い伸びを記録しました。とくに生成AI分野は急成長しており、2024年の市場規模は1,016億円、2023年から2028年にかけての年平均成長率は84.4%という驚異的な伸びが予測されています。
こうした成長市場をめぐって、グローバルではGoogle、Amazon、Microsoft、IBMといった大手テック企業が、クラウドベースのAIサービスや巨大なデータ基盤を武器に存在感を強めています。国内では、NTTデータ、NEC、日立製作所などが豊富な導入実績と技術力を活かし、独自の強みを打ち出しながら競争を繰り広げています。今後の競争軸は単なる技術力にとどまらず、業務改善支援やセキュリティ強化、倫理的なAIの実装といった「信頼性」や「ガバナンス」の領域にも広がりつつあります。
このような競争環境のなか、富士通は独自の差別化戦略を進めています。まず、長年培ってきた企業向けITサービスの知見を活かし、既存システムのモダナイゼーションや業務プロセス改革を支援することで、企業がAI技術をスムーズに導入できる環境を整えています。さらに、プラットフォーム「Fujitsu Uvance」を軸に、製造、金融、ヘルスケア、公共など多様な産業を横断する形で、社会課題の解決を目指すソリューションを展開しています。
富士通はまた、海外で得た先進事例を日本市場へフィードバックすると同時に、日本市場で培った高い信頼性をグローバル市場にも展開することで、ローカル対応とグローバル展開の両立を図っています。加えて、MicrosoftやPalantir、AMDといったパートナーとの連携を強化し、オープンなエコシステムのもとで柔軟かつ迅速に技術革新に対応できる体制を築いています。
単なる技術提供にとどまらず、富士通は「Trusted AI」「Human-centric AI」という理念を掲げ、信頼性と先進性の両立を追求しています。こうした取り組みによって、国内外のAI市場における確かなポジションを築きつつあります。
求められるスキルセットと企業の期待
AIやデータ活用領域は、多くの大手ICT企業にとって重要な戦略分野となっています。富士通をはじめとする総合ITサービス企業では、データサイエンティストやAIエンジニアの採用が強化されており、求められる人材像もより高度で多様化してきています。
こうした企業では、PythonやRといったプログラミング言語を使ったデータ分析・統計解析のスキルに加え、機械学習や深層学習といった先端技術を実務に応用できる力が重視される傾向にあります。単なる技術知識にとどまらず、実際のプロダクト開発や成果検証を自律的に進められることが期待されます。
さらに最近では、こうした技術面に加えて、プロジェクトを円滑に推進するためのコミュニケーション力や、チームや部署を横断して課題解決に取り組むマネジメント力も重視されるようになってきました。とくに、DX推進を担うポジションでは、業務プロセス全体を俯瞰し、経営目線で課題を捉えて提案できる力が求められる場面が増えています。
また、多くの企業が、高度な専門スキルを持つ人材に対しては市場競争力を意識した報酬制度や、リスキリング・アップスキリングを支援する仕組みを整備しつつあります。こうした動きからも、単なる技術者にとどまらない、多角的な能力を備えた人材への期待が高まっていることがうかがえます。
このように、AI分野でのキャリアを目指す場合には、技術力とビジネス力の両方を磨き、実践の場で柔軟に対応できる力を養っていくことが、今後ますます重要になると考えられます。
キャリアアップと採用の視点
デジタル技術者向けキャリアパスの例
富士通のようにグローバルでAIやデジタルサービスを展開する企業では、高度な技術を扱う専門人材に多様なキャリアパスが用意されています。
たとえば、グローバル市場向けのソリューション開発や、大規模な国際プロジェクトへの参画を通じて、先端技術を活用したオファリングの提供に携わる道があります。ここでは、海外拠点や多国籍チームとの協働を通じ、国際的な経験やネットワークを広げることが期待されます。
日本市場向けの事業では、DX推進やモダナイゼーション支援に取り組み、国内企業の業務改革を技術面から支援する役割が中心となります。業界特有の課題に応じた技術応用や、官民連携プロジェクトへの参画を通じて、深い業務知識と技術運用力を磨くことができます。
さらに、コンサルティング領域に進めば、AI技術の導入支援や業務プロセスの改善提案、システム設計など、技術とビジネスをつなぐ役割を担うことができます。顧客との対話を通じて課題を掘り下げ、解決策を設計・実装する経験は、リーダーシップや戦略的思考力を大きく育てる機会となります。
このような幅広いキャリアパスの中で、技術の専門性を深めながら、組織全体の変革を推進できるリーダーへと成長していくことが期待されています。
採用担当者向けの視点
高度なデジタル技術を扱う人材を採用するうえでは、ポジションごとに求められる技術スキルやビジネススキル、マネジメント能力を明確に整理することが欠かせません。
適切な人材像を描ききれていない場合、表面的なスキルの有無だけで評価してしまい、実際のプロジェクトに貢献できる人材を見極めることが難しくなります。
選考プロセスでは、これまでのプロジェクト経験や課題解決のプロセスを具体的に問うため、ケース面接や実技テストを組み合わせる方法が有効です。とくに、複数部門を巻き込みながら推進する力や、関係者と柔軟に連携するための対話力は、面接設計を工夫して見極める必要があります。
また、業界全体では、生成AIや大規模言語モデル(LLM)といった新たな技術領域に関する実務知見へのニーズが急速に高まっています。こうした背景を踏まえ、従来の評価軸にとらわれず、技術応用力やビジネスへの落とし込み力を重視した柔軟な採用基準を設けることが、今後さらに重要になるでしょう。
まとめ
本記事では、富士通の決算資料や最新の事業動向をもとに、AI・デジタル分野における企業の戦略や人材像について整理してきました。
AI市場は世界的に急速な成長を続けており、日本市場でも生成AIを中心とした技術革新が大きなうねりを生み出しています。こうしたなかで、富士通のような総合ITサービス企業は、技術革新と社会課題の解決を両立させる新たなビジネスモデルに取り組み、AI技術を核にしたクロスインダストリー展開を加速させています。
また、求められる人材像も大きく変わりつつあります。単なる技術者ではなく、技術とビジネスを橋渡しし、組織や社会全体の変革を支える視点を持つことが、これからの時代に求められる重要な資質になっています。企業側も、実践力や柔軟な発想を備えた人材を見極め、育成するための仕組み作りを進めています。
デジタル技術を武器に、社会に新たな価値をもたらす担い手が、これからますます必要とされる時代です。キャリア形成を考えるうえでも、技術力とともに、広い視野と柔軟な思考を培うことが一層重要になっていくでしょう。
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