次回の更新記事:LLMにプロンプトのみで仮想的な強化学習を発生させる…(公開予定日:2025年06月19日)



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NECの決算に見る、現場起点のAI活用と人材育成の今

   

本記事では、NECの最新決算資料をもとに、同社のAI戦略と人材戦略の動きを読み解きます。AI分野でキャリアを築きたい方や、AIスキルを持つ人材を採用したい企業のご担当者にとって、実務に役立つヒントをお届けします。本コラムは、AI関連事業を行う企業とAIスキルを持つ人材をつなぐスカウト型マッチングサービス「AIDB HR」の連載企画として執筆しています。参考になった方は、ぜひサービスページにもお立ち寄りください。

生成AIを活用したソリューション展開が各業界で進む中、NECは自社開発の大規模言語モデル「cotomi(コトミ)」を軸に、自治体や金融・製造分野などへの導入を広げています。2025年3月期の決算では、営業利益が前年比で36.4%増加するなど、AI・ITサービス領域が業績を力強く牽引しました。

cotomiをはじめとするAI技術を実装するための人材戦略や組織づくりにも注目が集まっています。本記事では、こうした取り組みを通じて、読者の皆様がキャリア設計や採用戦略を見直すうえでの視点を得ていただければと考えています。

参照情報:NEC 決算短信・決算説明資料ほか

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NECという企業の立ち位置と最新の決算状況

NEC(日本電気株式会社)は1899年創業のICT企業で、通信インフラや行政システム、ITサービスなど、社会の基盤を支える領域で長年にわたり事業を展開してきました。

2025年3月期の決算では、売上収益が前年度よりわずかに減少した一方で、営業利益は大きく伸びました。業績を下支えした主な要因のひとつが、ITサービス事業とAI関連の取り組みです。既存のサービス提供に加え、生成AIを含む新たな技術領域への投資が経営全体に影響を与え始めていることが読み取れます。

こうした変化から、AI技術が単なる研究開発のテーマではなく、企業経営にとっての意思決定や構造改革と密接に結びついている段階に入っていることが示唆されます。

NECのAI事業が大切にしていること

NECは、AIの活用を「派手な技術導入」ではなく「現場の課題解決」に重ね合わせるかたちで進めています。注目すべきは、技術そのものの先進性よりも「使えること」を重視している点です。

この方向性の背景には、2010年代から継続してきた社内人材の育成方針があります。たとえば、社内に設けたAI研修プログラムは、技術的な知識だけでなく、業務課題に落とし込む能力まで視野に入れた内容で構成されています。2024年に再編された「BluStellar Academy for AI」もこの流れの一環で、AIを社内に根付かせるための文化的・教育的インフラと見ることができます。

このような体制は、AI導入を単発的な試行で終わらせないためのひとつの仕組みとして捉えることができます。

NEC the WISEという技術群の考え方

「NEC the WISE」は、NECが蓄積してきたAI技術群を体系化した呼び名で、特定の製品名ではありません。重要なのは、それぞれの技術を単独で用いるのではなく、課題に応じて複数の技術を組み合わせて解決策を設計する、という考え方です。

この構造を知ることで、AIをサービスとして提供するうえで「何を組み合わせてどう運用するか」という視点が技術選定以上に重要であることが見えてきます。

以下のような技術が含まれています。

  • 画像や映像をもとに物体や状態を認識する画像認識
  • 音声を文字に変換し分析する音声認識
  • 与えられた条件下で最善の選択肢を導く最適化アルゴリズム
  • データから普段と異なる兆候を検出する予兆検知
  • 文章や文書を構造化する自然言語処理

これらをどう組み合わせるかは、業種や業務ごとに異なるため、汎用的なAI製品だけでは対応しきれないという制約の理解にもつながります。

実務に根ざしたAIの使われ方

NECのAI技術は、既に多くの業務プロセスに組み込まれています。それぞれの事例からは、導入時に重視される条件や制約が読み取れます。

  • 顔認証技術は、正確性が非常に重視される領域であり、ベンチマーク評価での結果が導入判断に直結しやすい
  • 議事録自動作成は、音声の精度だけでなく文脈の理解や誤認識時の修正コストも実用性に関わってくる
  • RAPID機械学習は、現場での作業員の熟練度に依存しない点が重視されており、品質の標準化という観点から導入されている
  • インバリアント分析は、日常的なデータから異常を見つけるアプローチで、経験則による判断を補完する役割を持つ

これらの活用例は、AI導入が「人間の作業を完全に置き換える」というより、「人が判断しきれない領域を補助する」使い方であることを示しています。

cotomiという生成AIとその使われ方

cotomiは、NECが独自に開発した日本語特化の生成AIです。ChatGPTなどの汎用型と異なり、業務に組み込む前提で軽量かつ制御しやすい設計になっています。

注目すべき点は、cotomiが単体で提供されるのではなく、特定の業務プロセスにどう組み込むかをセットで考えられていることです。たとえば以下のような条件への対応が重視されています。

  • セキュリティ要件が厳しい企業や自治体に向けたオンプレミス対応
  • 応答の遅延を極力避けたい業務でのリアルタイム処理
  • 日本語特有の敬語や文体の扱いを前提としたチューニング

このように見ると、cotomiという製品そのものよりも、どのような前提条件を持つ現場で、どのような配慮と設計を行えばAIが定着しやすいか、という視点が重要になります。

業界別に調整された導入アプローチ

cotomiは、業界や用途によって提供形態が調整されています。これは、生成AIのように汎用性の高い技術であっても、業界ごとに要求される仕様や許容されるリスクが異なるためです。

  • 自治体では住民対応の自動化が進められていますが、誤応答への慎重な対応が前提となります
  • 金融機関ではマニュアル整備や文書生成が対象になっており、信頼性と説明責任が問われます
  • 製造業では技能伝承や記録業務の効率化を主な目的として導入されています

業界ごとの取り組みを比較すると、生成AIを導入する際の課題は技術力よりも、むしろ「制度」「文脈」「運用体制」といった周辺の要素によって決まることが多いとわかります。これは他社での導入検討においても、示唆として活用できる視点です。

NECに学ぶ人材の姿と求められるスキル

多様な人材が協調する構造

LLMや関連技術が業務に取り入れられはじめて以降、それを支える人材にも多様な役割が求められるようになってきました。NECでも、技術の専門性だけでなく、組織の中で協調して動ける力が重視されているように見受けられます。

たとえば、モデルの実装や精度向上に取り組むエンジニア、データ基盤の設計を担う技術者、プロジェクトの全体設計や現場展開を支援する企画職など、それぞれが異なる観点で関わる構図が想定されます。それぞれの専門性が異なる一方で、プロジェクトを円滑に進めるためには、周囲との相互理解や連携が欠かせません。

NECが人材育成の中で一貫して強調しているのは、「業務の現場で本当に活かせる技術を届ける」という姿勢です。技術を磨く力と、組織や社会に向けた視野の両方が、重要視されているように読み取れます。

スキルの組み合わせが働き方を広げていく

LLMを活用した業務支援が拡大する中で、求められるスキルにも広がりが見られます。基礎となる技術分野には、統計的なモデリングや機械学習の知識が含まれますが、そこに加えて、データを整理・加工する能力や、システム全体を安定して運用する視点も必要とされる場面があります。

また、業務の一部としてLLMを導入する場合には、単にモデルを構築するだけではなく、生成された出力をどのように扱い、既存業務とどう整合させるかといった設計上の検討も含まれます。そのため、プロジェクト運営の経験や、関係者との調整を行う力にも注目が集まりやすくなっています。

NECの取り組みを参考にすると、技術力と現場感覚のあいだをつなぐ能力、あるいはモデルの制御や運用に関するスキルが、これからの実務において一層求められていくと考えられます。

キャリア形成における選択肢とその動き方

NECのような大手企業では、業種横断的なプロジェクトに関わる機会が比較的多く、入社後も多様な経験を積むことができると考えられます。エンジニアや分析職として技術力を磨きながら、次第にマネジメントやアーキテクチャ設計へと進む道が開かれているようです。

一方で、社内での役割やポジションを柔軟に移動できる制度も整えられつつあります。たとえば、社員が自ら異動希望を出し、開発から事業企画、あるいは研究から顧客対応へと役割を広げるといった動き方も、制度面から後押しされる傾向があります。

このような構造があることで、自身の専門分野にとどまらず、興味関心や経験に応じたキャリア形成が行いやすくなっていると考えられます。

採用や育成に求められる視点

採用や育成の面では、単にLLMに詳しい人材を探すというよりも、既存の業務と技術の橋渡しができる人材が重要視されるようになっています。NECでも、現場に根ざしたプロジェクトを多数展開しており、そうした実績を可視化しながら社内外の関係者と連携を深める姿勢が見られます。

また、求職者側は、企業がどのような形で技術に向き合っているかに敏感になりつつあります。社会課題への貢献、オープンソースへの参加、学会での発表などを通じて、社外にどのような取り組みを示しているかも、関心の対象になっているようです。

人材が流動化する時代において、採用活動では一方的な条件提示だけでなく、企業としての取り組みを丁寧に伝え、共感を得る姿勢が求められていると感じられます。

まとめ

本記事では、NECの最新決算資料や公開情報をもとに、同社のAI戦略とそれに関連する人材像について整理しました。

社会や産業の構造が大きく変わりつつある中で、NECは、長年培ってきた技術と業務ノウハウをベースに、現場起点のAI活用を進めています。自社開発のLLM「cotomi」を核に、業種ごとの特性に応じた生成モデルの展開も始まっており、AI技術が事業そのものに組み込まれつつある様子がうかがえます。

こうした取り組みは、AIを支える人材にも新たな視点を求めていきます。技術に加え、業務や社会との接点を意識する力や、異なる立場のメンバーと連携する姿勢が、今後いっそう重視される可能性があります。企業側もまた、役割の変化に柔軟に対応できる仕組みや、学び直しを支える環境づくりが問われています。

LLMやその周辺技術が、これからの働き方や価値創出のあり方にどのように影響していくのか。その変化にどう関わっていくかを考えるうえで、NECのような事例から得られる示唆は少なくありません。技術だけにとどまらず、組織や社会との接続を見据えた視点を持つことが、キャリアや採用の場面でも重要になっていくと考えられます。

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