本記事では、Oracle社の最新決算資料をもとに、クラウドや生成AIを軸とする事業戦略の方向性を読み解きながら、AI分野におけるキャリア形成や採用のヒントを探っていきます。
エンタープライズITの大手として存在感を強めるOracleは、2025年5月期第3四半期において売上高1,928億円(前年同期比9.1%増)、営業利益641億円(同11.3%増)と、堅調な成長を示しました。とりわけOracle Cloud Infrastructure(OCI)を中心とするクラウド事業の拡大と、生成AI基盤への継続的な投資が注目を集めています。
この動きは、AIを活用する現場で求められるスキルや人材像にも影響を与えており、キャリア戦略や人材採用を考えるうえで重要な示唆となると考えられます。
読者の皆さまがAI業界の流れを的確につかみ、自身のキャリアや採用活動に活かすための参考になることを目指しています。本記事は、AI領域でスキルを持つ人材と先進的な企業を結ぶスカウト型マッチングサービス「AIDB HR」の紹介を兼ねています。興味を持たれた方は、ぜひサービスページも覗いてみてください。
Oracleの最新決算から見えるクラウドとAIへのシフト
エンタープライズITを支える存在として長年成長を続けてきたOracleが、今、生成AIとクラウドの需要を背景に新たな成長フェーズに入っています。2025年5月期第3四半期の決算では、売上や受注の大幅な増加が見られ、特にAI関連のインフラ需要が顕著です。以下では、最新の決算データをもとに、クラウド事業の動向とAI需要との関係を紐解いていきます。
クラウド関連の売上が好調に推移
Oracleの2025年5月期第3四半期の売上高は141億ドル(約2兆1,700億円)に達し、前年同期比で6%増加しました(為替の影響を除くと8%増)。中でも、クラウド関連事業(IaaSおよびSaaS)の売上は62億ドルと、全体の約44%を占めています。前年同期比では23%増(為替一定ベースでは25%増)と高い伸び率です。
この伸びを支えているのが、IaaS(Infrastructure as a Service)とSaaS(Software as a Service)というクラウドの二本柱です。IaaSは「ITインフラをまるごとクラウドで使う」形、SaaSは「アプリケーションをクラウドで使う」形で、それぞれ以下のような用途があります。
IaaS(インフラ提供型クラウド)の役割とは
サーバーやストレージ、ネットワーク機器を仮想化して、必要なときに必要なだけ使える仕組みです。自社でハードウェアを保有しなくて済むため、初期投資が抑えられ、柔軟な運用が可能になります。
SaaS(ソフトウェア提供型クラウド)の特徴
メール、会計、CRM(顧客管理)などの業務アプリをインターネット経由で使えるサービスです。ソフトウェアのインストールや更新をユーザーが行う必要がないため、手間がかからないという特徴があります。
クラウド事業のうち、IaaSは売上27億ドルで前年同期比49%増(為替一定ベースで51%増)と急成長しており、企業のITインフラの置き換えが進んでいる様子がうかがえます。SaaSは36億ドルで、前年同期比9%増(為替一定で10%増)と安定成長を続けています。
AI開発を支える基盤としてのOCI(Oracle Cloud Infrastructure)
OracleのクラウドサービスであるOCI(Oracle Cloud Infrastructure)は、AI開発に欠かせない計算資源を提供しています。とくに2025年第3四半期は、生成AIモデルの学習や推論に必要なGPU(グラフィックス処理装置)の需要が急激に増加し、前年同期比でGPU消費量が244%(約2.4倍)に跳ね上がりました。
生成AIは大量のデータを処理して学習するため、通常のサーバーよりも遥かに強力な計算能力を要します。GPUはこの計算処理に特化しており、AI用途での利用が急拡大しているのです。
主要AI企業との契約と受注残の拡大
この動向を受けて、Oracleは世界的なAI関連企業との契約を相次いで締結しています。たとえば以下のような企業が含まれます。
- OpenAI
- xAI
- Meta
- NVIDIAやAMD
これらとの契約総額は480億ドル以上にのぼり、Oracleのクラウド受注残(RPO:残存パフォーマンス義務)は過去最高の1,300億ドルを超えました。これは、すでに契約されたサービス提供の約束が今後数年にわたって収益として積み上がることを意味しています。
AI時代のクラウド企業としての存在感
Oracleは、エンタープライズ領域での堅実なIT基盤を保ちながら、AIワークロードという新たな市場機会に応えることで、企業としてのポジションを再構築しつつあります。生成AIや高性能計算(HPC)といった分野では、単なる性能競争ではなく、以下のような包括的な対応力が問われています。
- データベースからクラウドまでを一貫して扱える統合プラットフォーム
- 世界各地に展開されたデータセンターによるスケーラビリティ
- 高い可用性とセキュリティを前提としたインフラ設計
こうした基盤力に支えられて、Oracleは「AI開発を支えるクラウド」として存在感を高めており、今後はAIを導入したい企業やプロジェクトの増加とともに、その役割がさらに拡大していくことが予想されます。
データベースの強みを活かしたクラウドAIの展開
Oracleは、リレーショナルデータベースの分野で長年にわたり業界を牽引してきました。企業の中核を担うシステムにおいて、安定性やセキュリティを求められる場面で採用されてきた実績は、今も変わらず強みとなっています。
生成AIや大規模なデータ分析が進む中で、膨大なデータを安全かつ効率的に扱うための仕組みは不可欠です。Oracleのデータベースは、そうしたニーズに対して高い可用性と管理性を提供し、AI時代においても重要な役割を果たしています。
実際、Oracleはクラウド各社との連携を進めており、Microsoft AzureやGoogle Cloud、Amazon Web Services上で利用される「Database@Azure」や「Oracle Database Service for GCP」などの提供を通じて、マルチクラウド環境でのデータベース収益が前年同期比で92%増となりました。複数のクラウドをまたいでデータを扱いたい企業にとっても、Oracleの存在感が強まっています。
AIモデルと連携する「Oracle AI Data Platform」
2025年の第3四半期には、「Oracle AI Data Platform」と呼ばれる新サービスが発表されました。このサービスでは、OpenAIのChatGPTやxAIのGrok、MetaのLlamaといった外部の生成AIモデルを、Oracleのデータベースと統合して使うことができます。
特徴的なのは、これらのAIモデルをOracleのデータベースの中に直接呼び出して使える点です。企業内の機密データを外部に出すことなく、社内データを活かした分析や予測が可能になります。プライバシー保護やコンプライアンスが重視される業界においても、導入しやすい仕組みとなっています。
ERPやCRMなど業務アプリとの統合が進む
Oracleは、経理・財務・人事・購買などの基幹業務を支えるERP(Enterprise Resource Planning)や、顧客管理を行うCRM(Customer Relationship Management)といった業務アプリケーションもクラウド上で提供しています。これらのアプリにもAI機能が次々と組み込まれており、日々の業務の自動化や意思決定の高度化が進んでいます。
たとえば、Fusion Cloud ERPは2025年Q3に9億ドルの売上(前年同期比16%増)を記録しており、着実に利用が広がっています。こうした業務アプリとOCI(Oracle Cloud Infrastructure)の組み合わせにより、金融、医療、製造などの高セキュリティが求められる業界でも導入が進んでいます。
今後のAI業界をけん引する視点とスキル
LLMやクラウド基盤の進化にともない、企業では技術そのものだけでなく、幅広い視野と応用的なスキルをもつ人材への関心が高まってきています。Oracleの最新決算を通じて見えてくる市場の動きや事業展開を踏まえながら、今後注目されそうなスキルや姿勢について整理してみます。
投資判断を支える戦略的な視点
Oracleでは、GPUを含む大規模なクラウドインフラへの投資が継続されており、それがクラウド事業の成長を後押ししています。クラウド売上の増加や受注残高の蓄積からも、大規模な初期投資が中長期的な収益拡大に寄与していることがうかがえます。
こうした背景をふまえると、技術導入の場面では、単に利便性や新規性だけでなく、投資対効果(ROI)の見通しを定量的にとらえる視点が求められるようになるかもしれません。経営層や関連部門に対して、技術的な選定理由を根拠とともに説明できる力が重視される場面もありそうです。
グローバル環境での運営と開発体制への理解
多国籍な顧客層と大規模なクラウドインフラを抱える企業は、各地域でのニーズに応じた対応が求められる状況にあります。組織としても、異なる言語や文化的背景をもつチームが日常的に協働します。
製品やサービスのアップデートが頻繁になるクラウド分野では、アジャイル開発の考え方が根付いており、段階的に改善を重ねていく進め方が一般的です。こうした開発体制を理解し、柔軟に対応できる体制づくりを支える力も、プロジェクトの安定的な進行に影響を与えると考えられます。
クラウドネイティブ設計への理解と対応力
クラウド基盤(OCI)では、マイクロサービスやコンテナといった技術が標準的に使われる場面が増えています。大規模なシステムを小さな単位に分割して運用することで、保守性や拡張性を確保しやすくなります。Dockerのようなコンテナ技術と組み合わせることで、開発環境から本番環境への移行も効率化されます。
このような設計思想に沿った構築・運用が求められる場面では、クラウド特有の技術構成や制約を理解したうえで判断できる姿勢が重視されそうです。
モデル運用とセキュリティ管理の両立
LLMの導入や運用にあたっては、学習済みモデルを用いた推論だけでなく、その監視・更新・再学習などを含む一連のプロセスの管理が必要になります。MLOpsという考え方のもとで、モデルのバージョン管理や再現性のある開発プロセスが重視される流れが定着しつつあります。
また、医療や金融など、厳格なセキュリティ基準が設けられている業界では、データの管理方法や通信経路の暗号化、ネットワークの分離構成などが求められる場面もあります。Oracleのクラウドサービスは、こうした要件に応じた設計が可能な構造を備えており、実務上それらを活かせる構成が求められる場面もあるかもしれません。
ガバナンスと倫理への意識
ERPやCRMなどの基幹業務システムにLLMを組み合わせる取り組みが広がっています。データの自動分析や業務プロセスの高度化が進む一方で、生成された出力の信頼性や、利用されるデータの偏りといったリスクに対しても注意が必要です。
Oracleが提供するような堅牢なクラウド基盤を用いる場合でも、倫理や法的要件への配慮が欠かせません。利用する側が、どのようなデータを扱い、どのようにモデルの出力を活用するのかといった観点をもって取り組むことが、企業の信頼性や持続的な運営にもつながります。
まとめ
本記事では、Oracleの最新決算をもとに、クラウドやLLM関連事業の成長動向を踏まえながら、今後の企業戦略や求められる人材像について整理してきました。
生成モデルの活用やHPCリソースへの需要が高まるなか、Oracleはデータベース技術とクラウド基盤を組み合わせた独自の展開を進めています。複数のグローバル企業との連携や、クラウド受注の拡大もあわせて、事業全体がLLM時代のニーズに応じたかたちで進化を続けています。
その一方で、技術の進化だけでなく、投資判断の視点、クラウドアーキテクチャの理解、組織運営の柔軟さ、さらにはプライバシーや倫理への配慮といった、より複合的なスキルや意識が求められる場面も増えています。単なる技術習得にとどまらず、広い視野とバランスのとれた判断力を備えた人材が、今後の企業成長において重要な役割を果たしていくと考えられます。
キャリアの可能性を広げたい方や、採用戦略を見直したい企業の方にとっても、今回のOracleの動きは多くの示唆を含んでいます。日々進化する技術に向き合いながら、長期的な視野でのスキル形成や組織づくりを検討するタイミングかもしれません。
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