落合陽一氏ら筑波大学の研究グループは、人間が理解する言語とPythonなどの高水準プログラミング言語をGPT3.5やGPT4などの大規模言語モデルマシン(LLMM)の言語でつなぐ新しいアプローチ「抽象言語オブジェクト」を提案しています。
研究グループの目標は、デジタルと現実がシームレスに絡み合うデジタルネイチャーという世界観の発展を促進することです。
平たく表現すると、研究グループは人間とコンピューターの間に橋をかけようとしています。
本記事はそんな最先端の研究を、普段論文を直接読むことはない方々にとっても分かりやすく紹介することを目指して作成されています。
参照論文情報
- タイトル:Towards Digital Nature: Bridging the Gap between Turing Machine Objects and Linguistic Objects in LLMMs for Universal Interaction of Object-Oriented Descriptions
- 著者:Yoichi Ochiai, Naruya Kondo, Tatsuki Fushimi
- URL:https://doi.org/10.48550/arXiv.2304.04498
- 技術デモ:https://codesandbox.io/s/alos-simulator-mk0k2t
人間は「オブジェクトの理解」によって世界と繋がってきた
私たちが住んでいる世界は、生物や無生物のオブジェクトが密接につながっている豊かで複雑な世界です。人類の歴史全体を通じて、私たちはこれらのオブジェクトを理解し、操作して、私たちのニーズや欲望、好奇心を満たすために努めてきました。
そもそもオブジェクトとは
「オブジェクト」とは、現実世界のエンティティ(物体や概念)を脳やコンピュータ上で表現・管理するために使用される概念のことです。
人間が世界と相互作用する最も基本的な方法の1つは、観察するオブジェクトや現象に名前を付け、分類し、記述することです。人間の自然言語を通じて表現され伝達されるオブジェクトは「言語オブジェクト」と呼ばれます。
機械におけるオブジェクトの概念
言語オブジェクトと対応する概念として、プログラミング言語で記述される「チューリングマシンオブジェクト」があります。
チューリングマシンオブジェクトとは、アラン・チューリングによって考案された概念で、一連の状態と特定のルールに基づいて、状態に応じて記号を読み取ったり、書き込んだり、状態を変更したりするための言語です。
要するに、機械の言語で現実世界のエンティティ(物体や概念)を表現・管理するために使用される概念がチューリングマシンオブジェクトです。ただし、チューリングマシンオブジェクト自体は抽象的な計算モデルを表し、現実世界のエンティティを直接的に表現・管理する概念ではありません。その役割は、データ構造やオブジェクト指向プログラミングの概念が担っています。
人間とコンピューターを大規模言語モデルが繋ぐ
デジタルネイチャーが実現する可能性
これまで人間はオブジェクト指向プログラミング言語を通して、機械が現実世界のオブジェクトを表現し、それらと相互作用する能力を作り上げてきました。しかし、デジタルと物理的な世界の間のシームレスな相互作用を実現するためには、チューリングマシンオブジェクトと人間の言語オブジェクトの間のギャップを埋めるためにさらなる研究が必要です。
デジタルと物理的な現実が融合する新たなパラダイムをデジタルネイチャーと言います。デジタルネイチャーが実現した世界では、人間がコンピューターを通じて世界と関わり、操作できるようになります。
この新たなパラダイムは、私たちが周囲の世界との関わり方や現実との関与の仕方を変革する可能性があります。そこでは、多岐にわたる学習やさまざまな作業が直感的で簡単になります。このデジタルネイチャーの実現において活躍する可能性があるのが大規模言語モデルです。
大規模言語モデルには抽象化能力がある
GPT-3.5やGPT-4などの大規模言語モデルは、大量のテキストデータに基づいて訓練され、世界に関する知識を学習・推論する能力や、オブジェクトとその振る舞いに関する創造的で首尾一貫した記述を生成する能力が優れています。
大規模言語モデルの抽象化能力を活用して、人間が知覚する現実世界のエンティティとコンピューターが処理する情報との間のシームレスな相互作用を促進するために、新たなオブジェクト概念である「抽象言語オブジェクト」が使用できると考えられます。
抽象言語オブジェクトは、
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