最終更新日:2020/02/12
バッテリーの性能をよくするには新しい材料が必要
バッテリーは材料によって特性が変わるため、バッテリー開発を促進する上では新規材料の発見が非常に重要となる。今日、リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く再充電可能であるため、全バッテリーの約3分の1を構成する最も人気のあるバッテリーの1つだ。しかし、使用されている材料が高価である点や、大容量の負極材料が未開発である点など、改善の余地は多く残っている。
アメリカ合衆国にあるユタ大学のSteven K. Kauweら研究者は、リチウムイオン電池開発に用いられる新規材料発見という課題に着目し、効率良く新規材料を発見するために、機械学習を用いて材料特性を元にバッテリーの特性予測を試みた。結果、バッテリー開発に機械学習を適応するための課題が明らかとなった。
機械学習を用いたバッテリーの特性予測
Steven K. Kauweらの研究のポイントは以下の通りだ。
✔️ミッション ✔️解決手法 ✔️結果 |
その詳細を以下で述べる。
バッテリー開発には新規材料の発見が必要不可欠
バッテリー材料の研究は、1800年代から始まり、それ以来、新規材料の発見がバッテリー開発を促進してきた。各材料はエネルギー密度の向上、充電性、高出力、低コストなどの用途に適した特性を備えている。
リチウムイオン電池は、1980年に考案され、今日、エネルギー密度が高く、再充電可能という理由で全バッテリーの約3分の1を構成している。
しかし、リチウムイオン電池にも欠点がある。1つ目はCo、Ni、Mnなどの遷移金属を使用しているため、比較的高価な点だ。2つ目は大容量の負極材料がまだ開発中であり、利用不可能な点だ。この様に、リチウムイオン電池の開発において改善の余地は残っており、新規材料の発見が重要な課題となる。
機械学習で材料ごとのバッテリー特性を予測
Steven K. Kauweらは、以前、Ghadbeigiらが公開したバッテリーの材料データを元に、 トレーニング用に172個、テスト用に43個のデータを準備した。また、49の記述子(予測モデル構築のための説明変数)を設定した。そして、機械学習モデルを活用して、バッテリー材料の記述子と25サイクルでの放電容量の関係を計算した。
計算にはPythonライブラリのscikit-learn(正則化項、カーネルリッジ回帰、ランダムフォレスト、サポートベクトル回帰)が使用された。
バッテリー開発への機械学習適応における課題が明らかに
今回使用した4つのモデルのパフォーマンスは、一般的に報告されているものを下回る結果となった。 各モデルの予測に適切な記述子が欠如していたことが1つの原因と考えられる。
以上より、バッテリー構造や材料の複雑さが、バッテリー研究におけるデータ測定、報告のフォーマットの不均一性と相まって、バッテリー開発への機械学習の適応を妨げていると考察できる。この課題を克服するためには、研究コミュニティ全体での、測定手法や情報フォーマットの標準化が求められる。
ランダムフォレストモデルより、各記述子の予測への影響度を決定した。上位の記述子には、平均双極子分極率、平均気相塩基度、および平均融解熱が確認された。
電気化学電池は、イオンの挿入と除去、および関連する酸化還元反応に依存している。また融解熱や双極子分極率などの記述子も、仮説的には、リチウムイオン電池の特性に影響する可能性がある。
研究紹介は以上だ。
この研究がバッテリー開発における機械学習の利用を促進させる機会となるだろう。
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この記事で取り扱った論文:Steven K. Kauwe, Trevor David Rhone, and Taylor D. Sparks,”Data-Driven Studies of Li-Ion-Battery Materials”,Crystals,9(1),54 – DOI
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