AIが科学研究を加速させる。この言い回し自体はもう珍しくありません。しかし2025年から2026年にかけて、その意味合いが変わり始めています。「ベンチマークで好成績を出した」「論文のような文章が上手くなった」という次元の話ではありません。数学の未解決予想が実際に反証され、AIが提案した新薬候補が試験管内実験を通過し、10年がかりの発見を2日で再現したシステムが報告されています。

AIが科学の「やり方」を変えつつある
この1年で起きた変化の本質は、AIが研究の道具から共同作業者になりつつあることです。
仮説をつくるのも、それを検証するのも、これまでは人間の仕事でした。AIの役割はデータ処理や文献検索の高速化、つまり「手足」としての利用が中心でした。ところが最近発表された複数のシステムは、仮説の生成そのものや、目的関数の設計、さらには研究成果を評価する査読プロセスにまでAIを組み込んでいます。
そして興味深いのは、AIが研究を加速させた先に見えてきた、次のボトルネックです。論文が増えれば、それを評価する査読に負荷が集中する。研究者たちはその問題を「差し迫った査読の危機」と表現しています。AIが研究を速くすればするほど、査読もAIの支援なしには回らなくなる。こうした構造的な連鎖が、もう始まっています。
しかもこの流れは研究プロセスだけに留まりません。2026年1月にはOpenAIが、GPT-5.2を組み込んだ論文執筆ワークスペース「Prism」を公開しました。LaTeXの編集から引用管理、ファクトチェックまでをAIが支援する。研究の上流から下流まで、科学のパイプライン全体にAIが入り込みつつあります。
本記事では、この流れを4本の研究論文から読み解いていきます。AIは科学研究にどこまで入り込み、何を変え、どんな課題を生んでいるのか。この動きは科学の世界に限らず、企業のR&Dや品質管理にも通じる設計思想を含んでいます。