ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』の中で「人類が大規模な協力を実現できたのは物語の力による」と述べています。
そんなハラリの仮説をAIの世界に持ち込み、「AIエージェントに物語を聞かせることで、協力行動は促されるのか?」という実験が行われました。
AIエージェントたちにさまざまな異なる短い物語を聞かせたうえで、「公共財ゲーム」が行われました。
資源を自分のために使うか、全体のために出し合うかを選ぶゲームです。
結果は明快でした。
全員が協力を信じる物語を聞いたグループでは、AI同士がより協力的にふるまい、全体の成果も高まりました。
一方で、バラバラな物語を聞かされたり、なかに自己の利益を追求するよう仕向けられたエージェントがいる場合、協力は崩れ、利己的な行動が目立つようになりました。
この結果から、AIエージェントも「どんな語りかけを受けるか」によって行動が変わるということが示されたとのことです。人間と同じく、文脈や物語のフレーミングが集団行動に影響する可能性があるということです。
ただし、研究チームはこの結果を「AIが物語に感動した」とは捉えていません。モデルはあくまで学習済みの言語パターンに反応しているに過ぎないかもしれない、と冷静な見方も添えています。
とはいえ、将来的に複数のAIが共存する社会を考えるうえで「どのような語りでAIを導くか」は本質的な問いになるかもしれません。
ハラリの仮説の中では、国家、宗教、貨幣など人々が信じる「フィクション」が、協力を支える土台となってきたというのです。人とAIが共存する時代においては、どのような変化が訪れるでしょうか。
📄 参照論文
The Power of Stories: Narrative Priming Shapes How LLM Agents Collaborate and Compete
所属: German Research Center for Artificial Intelligence (DFKI), University of Kaiserslautern–Landau (RPTU), Saarland University