住宅や商業ビルの電力消費を正しく予測するには?(AI×環境)【論文】

   

最終更新日:2020/05/21

住宅はエネルギーを大量に消費する

工業化とエネルギー需要の高まりにより、世界のエネルギー消費量は急速に増加している。そんなエネルギー消費の大部分は、住宅で消費されているという現状がある。

多くの住宅や工業地帯には、従量電灯センサなどのスマートセンサが設置されているが、より良いエネルギー管理を行う目的では十分に活用されていない。電力システムの運転の制御や計画に直接影響するため、効率的な商業ビルや住宅での電力消費予測とその管理が重要だ。

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韓国にある世宗大学校のZulfiqar Ahmad Khanら研究者は、電力管理サービスを構築する上で、正確に住宅や商業ビルの電力消費量を予測する必要があるが、その予測は難易度が高く、既存の手法ではうまく予測出来ていないという課題に着目し、LSTM-AEとCNNを組み合わせた手法を試みた。

結果、うまく電力消費を予測出来たのだろうか?続きを読んでみよう。

AIで未来を変える仲間:Zulfiqar Ahmad Khanについて
韓国の世宗大学校・コンピュータサイエンス学科でリサーチアシスタントを務める。電力予測のほかには高齢者転倒検知システムに関する論文も執筆している。

LSTM-AEとCNNを組み合わせた手法で電力消費量を予測

Zulfiqar Ahmad Khanらの研究におけるミッション・手法・結果は以下の通りだ。

✔️ミッション
電力消費量予測を正確に行いたい。

✔️解決手法
LSTM-AEとCNNを組み合わせた手法で住宅および商業ビルの電力消費を予測した。

✔️結果
提案手法は、複数の評価指標において他手法よりも優れた結果を示した。

研究の詳細を以下で述べる。

電力消費量予測の新しいモデルが求められている

住宅や商業ビルにおける電力消費量の予測は、より良いエネルギー管理サービスを提供するために非常に重要である。しかし、データにはノイズが多く、正確な電力消費量の予測は困難な作業であり、予測モデルは時々不正確な予測結果を生成してしまう。

従来の手法では、データが増えたり、変数間の相関関係が複雑になったりすると、ゼロから学習する必要があったり、オーバーフィットしたりしてしまったりするような問題が発生する。これらの問題は、逐次学習モデルを用いれば容易に解決できる。だが、電力消費量の空間的・時間的特徴をうまくモデル化することは困難である。

新手法で住宅および商業ビルの電力消費を予測

提案されたフレームワーク

Zulfiqar Ahmad Khanらは、LSTM-AEモデルを使用するCNNと、住宅および商業ビルの電力消費を効率的に予測するデータ前処理ステップを開発した。

電力消費予測のフレームワーク案





データ

2つのデータセットを使用した。

1つ目のデータセット:家庭用電力消費量データセット(UCIデータセット)
・2006 年から 2010 年の間にフランスの住宅から収集された実際の消費電力データが含まれている。
・合計2,075,269件のレコードが存在する。
・変数は日付、時間、グローバルアクティブパワー、グローバルリアクティブパワー、電圧、強度、サブメータリング1、サブメータリング2、サブメータリング3の9個である(サブメータリング1-3はそれぞれキッチン、洗濯室、リビングに対応している)。
・最小の時間単位は1分

2つ目のデータセット:
・商業ビルで取得されたデータ
・UCI データセットには,サブメータ 1,2,3 の 3 つの消費センサーがあるのに対し、こちらのデータセットには 1 つの電力消費センサしかない。
・最小の時間単位は15分

データの前処理

データセットには、空白、余分な値、外れ値が含まれている。それらはこのステップで削除された。また、データの分布範囲はそれぞれ異なっているので、標準変換で正規化した。

学習モデル

CNNをLSTM-AEと統合した。

CNN層は、入力層、隠れ層、出力層を含み、入力データからLSTM-AE用の特徴を抽出する。隠れ層には、畳み込み層、ドロップアウト層、プーリング層、ReLU層がある。畳み込みの後にReLU活性化とドロップアウトとが行われた。

LSTM-AEは、CNNで出力された特徴をモデル化するために使用された。1つ目のLSTM層がエンコーダとして使用され、2つ目のLSTM層がデコーダとして使用された。

提案モデルの層の数は合計10であり、33811個のパラメータを持った。CNNとLSTM-AEを組み合わせることで、シーケンス間の時間依存性を学習することができるのが特徴だ。

LSTM-AEの内部構造。

評価指標

MSE, MAE, RMSE, MAPEの4つの評価指標を用いた。

複数の評価指標で他手法よりも優れた結果を示した

結果、提案手法は他の手法と比較して、MSEMAERMSEMAPEなどのさまざまな性能評価指標においてより良い結果を示した。(日単位のUCIデータセットでMSE:0.0004)

UCIデータで1時間単位のデータでの手法同士の結果の比較

提案手法のMSEMAERMSEはそれぞれ0.19、0.31、 0.47であり、5つの手法の中で最小であった。

1時間単位の電力予測のための異なるディープラーニングモデルのMSEMAERMSEの誤差率。

日次単位のデータでの手法同士の結果の比較(データセット別)

UCIデータで、提案手法はMSEMAERMSEがそれぞれ0.0004,0.01,0.02であり、最小であった。商業ビルデータで、提案手法はMSEMAERMSEがそれぞれ0.0003、0.01、0.01 と最も低い値を示した。

(a)は韓国の商業ビルデータセットのMSEMAERMSEを示し、(b)はUCIデータセットに対するこれらの誤差率を示す。

他のベースラインモデルとの比較

結果は、1時間ごとのデータと日単位のデータの両方で比較された。提案モデルは複数のモデルの中で最も低い誤差率を示した。

結果は、提案したハイブリッドモデルがエネルギー予測に大きく貢献しうることを示した。

研究紹介は以上だ。

こういった電力消費を高精度で予測できる手法を用いれば、効率的な電力管理システムを構築できるであろう。

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この記事で取り扱った論文:Z. A. Khan, T. Hussain, A. Ullah, S. Rho, M. Lee and S. W. Baik,”Towards Efficient Electricity Forecasting in Residential and Commercial Buildings: A Novel Hybrid CNN with a LSTM-AE based Framework”, Sensors 2020, 20(5), 1399 DOI





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