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CADとLLMの連携が始まり、自然言語で設計する世界が開きつつある

深堀り解説

図面を描く前に、まず言葉でざっくり設計を立ち上げる。

そんなCADの使い方が、少しずつ現実味を帯びてきています。もちろん、まだ「欲しい部品を文章で頼んだら、そのまま製造できるデータが出てくる」という段階ではありません。

ただ、技術の完成度は明らかに変わってきています。

以前は、生成AIでどれだけそれっぽい三次元モデルを作れるか、というデモ的な見せ方が中心でした。しかし最近は、もう少し実務寄りです。製造現場に渡せる形式で出せるのか。曖昧な指示をどう確認するのか。実際の設計データをどう学習に使うのか。そうした、地味だけれど本当に大事な部分に焦点が移っています。

自然言語CADは「設計者を置き換えるAI」というより、設計作業を軽くする技術として見たほうがよさそうです。

注目したいのは、とくに次の三つです。

方向性どんなもの?なぜ大事か
STEPファイルを直接出す製造現場で使いやすい中立フォーマットを生成する生成結果を既存の工程に渡しやすくなる
曖昧な指示を確認する足りない寸法や条件をAIが質問する勝手な補完による失敗を減らせる
実際の設計履歴を学習する現場で使われる操作や手順をデータに入れるより実務に近い形状を扱いやすくなる

製造に渡せる形式を直接出す

CADデータを別の会社や別のシステムに渡すとき、広く使われているのがSTEPファイルです。

STEPファイルは、特定のCADソフトに縛られにくい中立フォーマットです。製造装置、加工用ソフト、検査機器、製品管理システムなど、製造の下流工程でも扱いやすい形式として使われています。

もし生成AIがSTEPファイルを直接出せるようになれば、生成した形状は「画面で見て終わり」ではなくなります。既存の製造パイプラインに渡せる可能性が出てきます。

これは、自然言語CADが将来的に実務へ入っていくうえでかなり大きなポイントです。

難しさは構造にある

ただ、STEPファイルを直接生成するのは簡単ではありません。

STEPファイルの中では、さまざまな要素が識別子で互いを参照しています。ひとつの面がどの辺に接続しているか、どの点と関係しているか、といった情報が、ファイル全体にまたがって書かれています。

そのため、識別子を一箇所でも間違えると、ファイル全体が壊れてしまいます。しかも、関係する情報がテキスト上では遠く離れていることも多い。LLMにとっては、かなり長い文脈を正確に追い続ける必要があります。

構造を並べ直して扱いやすくする

最近の研究では、この複雑な構造をそのままLLMに投げるのではなく、一度扱いやすい形へ並べ直す方法が試されています。

参照論文

大規模言語モデルを用いた自然言語からのCAD STEPモデル生成

STEP-LLM: Generating CAD STEP Models from Natural Language with Large Language Models

著者 Xiangyu Shi, Junyang Ding, Xu Zhao
URL https://arxiv.org/abs/2601.12641

2026-01-19

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STEPファイルのグラフ構造をツリーのような形に変換し、深さ優先探索の順序で並べ直す。すると、関係の近い要素がテキスト上でも近くに並ぶようになります。

これは地味ですが、かなり重要な工夫です。

LLMは、遠く離れた参照関係を完璧に追うのが苦手です。ならば、モデルが読みやすいように構造のほうを並べ替える。そうすることで、製造に近い形式を扱う道が少し開けてきます。

STEPファイルのグラフ構造を深さ優先探索でツリーに並べ直し、検索拡張による教師あり微調整と幾何報酬による強化学習を組み合わせるパイプライン

学習の流れ

段階やっていること狙い
説明文との対応を学ぶSTEPファイルとキャプションのペアで学習するまず構文として成立する出力を増やす
似た事例を参照する入力に近い既存データをプロンプトに添える形状の生成を安定させる
形状で評価する生成結果を三次元メッシュに変換して正解と比べる見た目や形状の近さを高める

実験では、こうした工夫によって、生成完了率やレンダリング可能率がかなり高い水準まで上がっています。形状の近さを測る指標でも、従来手法より大きく改善しています。

もちろん、これだけで「文章から完全な製造データが作れる」とは言えません。しかし、自然言語で作ったものを製造工程に近い形式へつなぐ道筋は、かなり見え始めています。

あいまいな指示を対話で整える

実際の設計指示は、最初からきれいに整理されているとは限りません。

「少し薄くして」
「穴を追加して」
「強度は保ったまま軽くしたい」
「この部品に合うようにして」

こうした指示は、人間同士なら会話の中で補えます。設計者が「どのくらい薄くしますか」「穴の直径は何ミリですか」と確認すればいいからです。

しかし、AIがその確認をせずに勝手に補うと問題になります。足りない寸法をそれっぽく作ってしまったり、条件の矛盾を見落としたりするからです。

CADでは、この「それっぽく補う」が危険です。文章生成なら多少の言い換えで済むこともありますが、設計では寸法や条件の違いがそのまま失敗につながります。

生成する前に確認する

そこで出てきているのが、生成の前に確認用のエージェントを置く考え方です。

参照論文

描画前に明確化:堅牢なテキストからCAD生成のためのプロアクティブエージェント

Clarify Before You Draw: Proactive Agents for Robust Text-to-CAD Generation

著者 Bo Yuan, Zelin Zhao, Petr Molodyk
URL https://arxiv.org/abs/2602.03045

2026-02-03

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いきなりCADコードを作るのではなく、まず入力文を読み、不足している情報や矛盾している条件がないかを確認する。そして必要な場合だけ、ユーザーに質問する。

そのうえで、整理された仕様を別のエージェントがCAD用のコードに変換します。

役割を分ける構成

役割担当すること期待できる効果
確認する役割入力文の不足や矛盾を見つけ、必要な質問をする勝手な補完を減らせる
生成する役割整理された仕様をもとにCADコードを作る出力の失敗を減らせる

ここで大事なのは、何でも質問すればいいわけではないという点です。

毎回細かく確認されると、使う側は面倒になります。かといって、確認しなければ勝手な補完が増える。このバランスをどう取るかが、自然言語CADを実務で使いやすくするうえで重要になります。

最近の研究では、小さめのオープンモデルでも、確認役と生成役に分けることで、商用の高性能モデルを単独で使うより良い結果が出るケースが報告されています。

これはかなり示唆的です。

将来的なCAD支援AIは、ひとつの巨大なモデルに全部やらせるより、複数の役割を組み合わせる形になるかもしれません。人間の設計プロセスに近い形で、「確認する」「仕様を整える」「形状を作る」「検証する」といったステップに分かれていくイメージです。

実際の設計履歴を学習に使う

CAD生成AIの性能を上げるうえで、もうひとつ大きな課題になっているのがデータです。

これまでよく使われてきたデータセットは、スケッチと押し出しに偏っていました。たしかに、スケッチして押し出すだけでも簡単な部品は作れます。ただ、現場の設計はそれだけではありません。

フィレット、面取り、ロフト、回転体、シェル、パターン。実際の設計では、もっと多くの操作が日常的に使われています。

フィレットやロフトを含む複雑な操作で生成された設計例。スケッチと押し出しに限定された従来手法では実現できなかった形状

単純な操作だけで学習している限り、自然言語CADは現場の設計感覚に近づきにくいのです。

操作の幅を広げる

最近の研究では、Onshapeのようなクラウド型CAD環境に蓄積された設計履歴を使う方向が出てきています。

参照論文

CADFS: 大規模言語モデルを用いたコンピュータ支援設計のための大規模CADプログラムデータセットとフレームワーク

CADFS: A Big CAD Program Dataset and Framework for Computer-Aided Design with Large Language Models

著者 Vladislav Pyatov, Gleb Bobrovskikh, Saveliy Galochkin
URL https://arxiv.org/abs/2605.01925

2026-05-03

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Onshapeでは、FeatureScriptというパラメトリックスクリプトが使われています。これは、実際の設計操作をかなり自然な形で記録できる仕組みです。

この設計履歴を、無理に別の中間形式へ変換せず、そのまま学習に使う。そうすることで、より現実の設計に近いデータをモデルに与えられます。

含まれる操作の例

種類操作
基本形状を作る操作スケッチ、押し出し、回転、スイープ、ロフト
形を整える操作フィレット、面取り、シェル、ホール
複製や組み合わせの操作ブーリアン演算、円形パターン、ミラー
補助的な操作コンストラクションプレーン、トランスフォーム、ボディ削除

こうした操作が入ることで、自然言語CADは「箱を作って穴を開ける」段階から、もう少し実際の設計手順に近いところへ進めます。

実際のFeatureScriptコードと、それが表現するロケット形状のモデル。エッジやフェイスの選択を構造化クエリで指定している部分が読める

そのままでは使えない

従来の設計履歴データセットと提案データセットの規模・操作数の比較。データの厚みが段違いに拡張されている

ただし、実際の設計履歴をそのまま学習に使えるわけではありません。

識別子がランダムだったり、暗黙のパラメータが含まれていたり、単位や表記が揺れていたりするからです。人間やCADソフトにとっては問題なくても、学習データとしてはノイズになります。

そこで、データを整える処理が必要になります。

整える内容目的
ランダムな識別子を短い識別子に置き換えるモデルが参照関係を追いやすくする
線分の始点と終点を明示する形状の構造を読み取りやすくする
不要な式を削る学習に必要な情報へ絞る
単位を統一する寸法の扱いを安定させる

さらに、説明文の作り方にも工夫があります。

ひとつのエージェントが設計手順の説明を作り、別のエージェントがその説明を検証する。操作の順番、専門用語、数値パラメータを照合して、説明とコードのズレを減らします。

ここから見えてくるのは、CAD生成AIの品質はモデルの大きさだけでは決まらないということです。

どんな設計データを使うのか。
そのデータをどれだけきれいに整えるのか。
説明文と設計コードをどれだけ正確に対応させるのか。

こうした地味な部分が、将来的な実用性をかなり左右します。

近い将来に使いやすい領域

では、自然言語CADはどこから使われ始めるのでしょうか。

いきなり完成品の設計を丸ごと任せるのは、まだ難しそうです。ただ、設計プロセスの一部に絞れば、かなり使い道が見えてきます。

使いやすそうな用途

用途相性理由
ラフな形状の立ち上げ高い最初のたたき台を素早く作れる
設計案のバリエーション出し高い条件を少し変えて複数案を試しやすい
標準部品の再構築中程度社内データが整っていれば効果が出やすい
古い設計データの編集補助中程度STEPなどの中立形式と相性がよい
完成部品の自動設計低い公差、材料、加工条件まで含める必要がある
複数部品の組立設計低い干渉や部品間制約の扱いが難しい

相性がよさそうなのは、設計の最初の段階です。

頭の中にあるイメージを文章で伝える。AIが不足している条件を確認する。ざっくりした初期形状を作る。そこから設計者が編集して詰めていく。

この流れなら、自然言語CADはかなり使いやすいはずです。

完成品を自動で出すというより、白紙の状態から最初の形を作るまでの時間を短くする。そう考えると、かなり現実的な技術に見えてきます。

将来的には、設計者がCADの細かい操作を一つひとつ選ぶ前に、まず自然言語で方向性を伝えるようになるかもしれません。AIはその意図を受け取り、確認し、初期形状や候補案を出す。設計者はそれを見ながら、寸法や構造を詰めていく。

自然言語CADの本命は、このあたりにありそうです。

まだ越えなければならない壁

とはいえ、自然言語CADが製造現場で本格的に使われるには、まだ大きな壁があります。

いちばん大きいのは、形状だけでは設計にならないという点です。

部品の形がそれっぽくできても、製造にはそれ以外の情報が必要です。寸法の許容範囲、材料、表面処理、加工方法、検査のための情報。こうしたものが揃って初めて、実際に作れる設計になります。

まだ十分に扱えていない情報

情報なぜ必要か
公差寸法のずれをどこまで許すかを決める
幾何寸法公差形状や位置関係の精度を指定する
製品製造情報図面や製造指示に必要な情報を含む
表面処理強度、耐食性、摩耗、見た目に関わる
材料指定性能や加工方法を大きく左右する

多くの研究は、まだ形状生成が中心です。これは自然な順番ではありますが、実務で使うにはその先が必要になります。

また、単一部品と組立品のあいだにも大きな差があります。

ひとつの部品を作るだけなら、形状の近さを評価すればある程度判断できます。しかし、複数の部品が組み合わさる製品では、干渉、可動域、組付け順、部品間の制約まで考えなければいけません。

これは難易度が一段上がります。

評価の難しさも残る

研究では、形状の近さを測るためにChamfer距離のような指標がよく使われます。これは便利な指標ですが、設計者が本当に気にすることをすべて測れるわけではありません。

評価したいこと既存指標だけでは難しい理由
製造しやすいか形が近くても加工しにくい場合がある
編集しやすいか設計履歴がぐちゃぐちゃだと後工程で困る
意図が保たれているか見た目が近くても設計思想が違うことがある
標準部品として使えるか社内ルールや規格との整合が必要になる

最新の手法でも、細かいフィレットを取りこぼしたり、画像入力の文字を読み間違えたり、本来はパターンとして表現すべき箇所を複数の押し出しとして作ってしまったりする失敗が残っています。

だからこそ、自然言語CADは「設計者の代わり」ではなく、「設計者の補助」として捉えるほうが現実的です。

設計は「入り口」中心に変わり始めている

自然言語でCADを動かす技術は、まだ完成された実務ツールではありません。

ただ、単なるデモの段階からは少しずつ抜け出し始めています。

製造に渡しやすい形式を直接出す研究。
曖昧な指示を対話で整える研究。
実際の設計履歴を使って、より現場に近い操作を学習する研究。

この三つが揃い始めたことで、CADとLLMの連携は、将来的な設計支援の土台になりつつあります。

ボタン一つで完成設計が出てくるわけではありません。公差も、材料も、組立も、製造条件も、まだ多くの課題が残っています。

それでも、ラフな形状の立ち上げ、設計案の探索、標準部品の再構築、古い設計データの編集支援といった用途なら、かなり現実的な可能性が見えてきました。

これからのCADは、最初から細かい操作を積み上げるだけの道具ではなくなるかもしれません。

まず言葉で意図を伝える。
AIが足りない条件を確認する。
初期形状や複数案を出す。
設計者がそれを見ながら、精度や制約を詰めていく。

そんな流れが、少しずつ開き始めています。

自然言語で設計する世界は、まだ完成していません。しかし、その入口はもう見え始めています。

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